鼠 ー新編ー

藤平松一(ふじひら しょういち)

第1話

 僕たちは、今どこにいるのか分からない。

 いつも、人間から逃げている。訳も分からず。

 殺されてしまうから。

 親の顔なんて、もうとっくに覚えてない。

 朝から晩まで目的もなく走り回ってる。

『おい、ここにもいたぞー!!』

『うわ、まじか。ここにもいんのかよ』

『もぉー、本当にやだ』

『なんで、こんなに鼠がいるのさ』

僕たちが何をした。

僕たちが人を殺したとでもいうのか。

僕たちは、そんなことしたくてもできないのは、わかっているはずだ。

人間は僕たちよりも脳みそがでかいから知識を手に入れる手段はなんでもあるはずだ。

じゃあ、なんで僕たちを苦しめる、殺そうとする。

なぁ、人間、僕たちを苦しめて楽しいか。

どういう気持ちなんだ。

なんでお前たちのために、僕たちが苦しまないといけない。



『ねぇ、父ちゃん鼠いるよ』

『本当だ、どっから出てきたんだろうな』

やばい、人間だ。

僕たちは必死に逃げた。

もうこんなことやりたくない。

また大事な仲間が人間によって殺されるかもしれない。

僕たちの小さな心が、またドクッドクッと響いている。

焦りや恐怖の他に知らない感情がある。

心の中をぐるぐる回っている謎の感情が何なのかは分からない。ただ言えるのは、これはプラスの感情に近い気がする。

『待てぇ〜、鼠ー!!』

『大きい声出しちゃダメだ、鼠がビックリするだろ。どんな生き物でも大切にしなきゃいけないんだ。人間は、生き物の中で一番頭がいいんだから、あんな人たちみたいなバカみたいなことしちゃいけない。お前は、俺の大切な息子なんだから』

『わかったよ、父ちゃん』

僕たちは、人間が何を言っているのか分からないし、分かりたくない。だけど、なんでだろうか。

心の中の知らない感情がこの親子の言っていることを聞けと言っているようだ。

あぁ、やっとわかった。人間が何を言っているのか。

俺たちは勘違いをしていたようだ。人間には、俺たちを殺そうと頑張る奴がいる。でも、その反対に俺たちを生かそうと頑張る奴もいる。

僕たちの一方的な感情や偏見で人間を敵に回していたけど、敵だと思っていたのは、ほんの一部の原因なんだ。


知識の盾は、自分の全てを守る。

知識の矛は、矛先の相手を傷つけるためだけに生まれ、やがて相手の全てを傷つける。


全部、バカバカしい。







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鼠 ー新編ー 藤平松一(ふじひら しょういち) @yuruyuru_2275

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