第7話 スキマ女子の優雅なる女子会 (提供者:すきま女(隙間女:女性))

 わ、わたしは怖い話を話すのって、じ、実は少し苦手なんだ。

 それって意外だって? ううん。そうじゃなくて、わたし自身、あんまり怖いって思う事が少ないの。他のヒトとは、怖い物を怖いって感じる感性が、少しずれているからなのかもしれないけどね。

 あ、でも、わたしの普段の暮らしとかが、結構怖いって言われる事はあるかな。わたし自身、ごく普通のOLなんだけど……

 とりあえず、今回はこの間の女子会の事でも話すね。新しい友達も、その時に出来たから、ちょっと紹介したいし。


 そんな訳で、わたしはその日もいつものメンバーで女子会をしていたの。

 ちなみにいつものメンバーって言うのは、口裂け女の女の子と、八尺様って呼ばれている、白いワンピースがステキなお姉さんなんだけどね。

 種族とか年齢とか色々バラバラだけど、みんな一応人型の妖怪だから、何となく気が合うんだよね。まぁ……わたしは二人と違って人型って言っていいのかちょっと微妙な所ではあるけれど。

 あ、あと、弟分というか下僕みたいな感じになったくねくね君もいるかな。この子は一応男子って事だから口裂け女ちゃんとかとは雰囲気が違うけれど、去年の夏に田んぼのあぜ道で直接バトった後は、素直になって、わたしの言う事を聞いてくれるようになったんだ。他のヒトが多い時には、くねくね君をスキマの中に隠したり見えないようにしているんだけど、わたしたちだけの時はまぁ大丈夫だから、一緒に同席させる事も多いの。

 ほら、男の子って美人と一緒にいるとテンションが上がるって言うもん。職場の後輩たちとかもそんな感じだし。


 ともかく、その日もその日で、口裂け女ちゃんとか八尺姐さんと何処で遊ぼうかって相談してたわけ。


「食べ歩きとかも良いけれど、あんまり肥るのも嫌なのよねぇ。八尺姐さんやサカイさんは、食べても太らなさそうだから羨ましいわぁ」


 そう言ってため息をついたのは、口裂け女ちゃんでした。女子会の中で最年少で、しかも美意識の高い彼女は、少しダイエットが気になるお年頃なのです。と言っても、口裂け女ちゃんは走るのが大好きなので、実は結構ほっそりしていて、肥るとかそう言う事を気にしなくても良いんですけどね。まぁ、少し前に呪物判定されかけた廃墟での怨霊食べ歩きを三人でエンジョイしたので、それでちょっと体型を気にしていたのかもしれません。その手の物を食べ慣れた私や八尺姐さんも、すこぅしこってりしていたなと思ったので。口裂け女ちゃんは、実は霊的な物とか呪物とかはあまり食べ慣れていないのです。


「肥るとかってぇ、あんたはそんなの気にしなくて良いでしょう! ほら、スミコちゃんなんかこう見えてワガママボディなんだからさ!」


 そう言って豪快に笑うのは八尺姐さんでした。八尺姐さんは元々山間の因習村とかに居を構えていたみたいなのですが、今ではすっかり垢抜けて、シティガールっぽくなってます。うちの組織のグループの病院で、看護師もなさっていますし。

 ともあれ、ああだこうだと話を進めるうちに、良さそうな神社に向かってみようという話になったのです。

 そう言えば、その神社とやらは立ち入り禁止になりつつあるという事でしたが、わたしたちは特に気にしませんでした。そう言うのって、人間向けの物ですからね。

 あ、でも、このお話を聞いている皆さんは、わたしたちの真似をしないようにしてくださいね。何があっても保証できませんから。


「何やあんたら。うちのシマに足を運ぶとは、見上げた根性やのう」


 誰もいない、さびれた神社かと思っていたそこには、きちんと管理妖と思しき巫女さんがいらっしゃったのです。巫女さんは人間ではありませんでした。しかし妖狐や天狗の類でも無かったのです。

 不思議な姿の巫女さんだな。今思えば自分の事を棚に上げていたのですが、わたしはまずそう思いました。

 その巫女さんは、人とも蛇とも蜈蚣ともつかぬ姿の持ち主でした。巫女装束姿の上半身は人間に近いのですが、腕が二対ほど余分に多かったのです。そして緋色の袴の奥からは、人の胴体よりも太い蛇の身体が、何メートルも伸びていました。

 そう言えば、お師匠様は蛇がお好きだったな。あれくらいの大蛇だったら、喜んで召し上がるだろうな。そんな事を思いながらも、わたしは巫女さんと向き合っていたのです。

 口裂け女ちゃんがわたしの隣で震え、八尺姐さんは巫女さんの方へと一歩前へと進みました。


「あら、こちらはあなたのお社だったんですね。勝手に上がり込んでしまって申し訳ありませんわ。私どもは見ての通り女子会を兼ねて、すこぅし暇つぶしがてらに遊びに来ていたのです」

「ちょ、ちょっと八尺姐さん! 暇つぶしとか、そんな事を言うと……」


 巫女さんが怖いらしい口裂け女ちゃんの声は震えていました。

 巫女さんはわたしたちを順繰りに見つめていましたが、ややあってから顔を綻ばせました。神職らしい清楚さと、わたしたちに馴染みのある妖しい禍々しさの入り混じった、とてもとても素敵な笑顔だったのです。


「あはははっ。よおく見たら、あんたらもまぁうちとほぼ同類みたいやな。ええでええで。うちもそろそろ暇を持て余しとった所やし、構わへんて」


 巫女さんはそう言って、豪快に笑い始めたのでした。

 後に知ったのですが、彼女は巫女と大蛇がドッキングした存在との事でした。

 そしてこれが、新しい女子会メンバーとの馴れ初めなのです。


〈総括〉

 どう考えても蛇みたいな巫女さんはカンカンダラですよね。そんなお方としれっと打ち解けてしまう隙間女さんとその仲間たちは……控えめに言って凄いです。

 というか隙間女さんは、職場では下っ端とか小間使いと仰ってますよね。それはそれで恐ろしい話かもしれないな、と思いました。

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