第14話 活路

「この期に及んでそんな戯言たわごとを吐くか! 貴様、私を笑わせに来てるのか?」


龍吾さんは心底馬鹿にしたような目と笑いでウチを見下した。


「龍吾さんははぁとの試練は3度目なんですよね? でしたら想孤さんがどのような性格か分かっていると思います。生きたいという人の心理を弄んで壊す事を趣味としている、そんな性格の、あの想孤さんが言った言葉、誰も争わずに試練を合格くりあする事が出来るという言葉が本当だとしたら? 最後まで生きた人間に絶望や苦しみを与えるとしたら? ウチらが見ている蝋燭、それには更に先があるかもしれないんです」


「言っている意味が全く分からんな。見ろ、蝋燭は2つだ。先ほど このが消えた男は消滅した。我々は蝋燭にを移さねばならない。なのにそれに先があるなどどういうことだ?」


龍吾さんはウチの言葉を否定しつつも話は聞いてはくれるようだった。


「この部屋は畳に置かれた小さな間接照明だけ。見晴らしはものすごく悪い。そしてを移した瞬間にすぐに真後ろの畳が崩れてウチらの注意を引きつけた。ここで1つ可能性が見えてきたんです」


「可能性?」


「蝋燭は減ったんじゃなくて、置く配置変わっていただけなんじゃないかって思ったんです。つまり、見えているあの2本の蝋燭の先にも、『もう2つの蝋燭』があるんじゃないかって」


「何っ········!?」


龍吾さんの目が大きく見開いたのが分かった。


「これははぁとの試練、戦闘で命の選別をしたりなんてしない。想孤さんは、生きたいと強く願う人間の心理を弄ぶ。想狐さんの最初の言葉の意味を言葉通り受け取るのなら、その道があったっておかしくない。そしてこの後の最後の部屋にはきっと、縦1列に並んだ蝋燭が4本ある」


龍吾さんは真っ直ぐにウチを見る。


「ふざけるな!! そんなめでたい発想など、私は思い付きもしないよ! そんなお花畑な話、これ以上聞くのは不愉快だ!! 私はを移す! これは生き残りを懸けた試練なのだ!!」


龍吾さんはそう言うと、颯爽と歩き、蝋燭にともした。


「貴様が何と言おうと私の勝ちは変わらない! 私はやるべき事をするだけだ!!」


龍吾さんは怒気が混じったような声でウチに言葉を吐き捨てる。


「未緒さん、をつけに行ってください」


「でも、蒼さんは····」


「良いんです。これはあくまで、ウチの話す仮の話なので」


ウチがそう言うと、未緒さんは何も言わずに進み、ゆっくりとを移した。


ゴトンっ!!!!!


そしてまた、蝋燭の真後ろの畳が崩れ落ち、更なる地下への階段が現れる。


すると、龍吾さんが驚愕したような口調で蝋燭を見つめた。


「どういう事だ!? 何故蝋燭が倒れない!? 仕掛けが動いたら倒れる仕組みじゃ無いのか!?」


ウチはそんな様子の龍吾さんを他所に、蝋燭の奥へとゆっくり足を進めた。生きたい訳でも、死にたい訳でもない。ただ、このはぁとの試練全体を通しての本当の狙いが見えたような気がしたから。ウチは、それを信じているだけ。


ウチは2人がけた蝋燭を通り過ぎ、1歩1歩 歩いていく。


そして蝋燭近くの間接照明も光も届かなくなってきた先に、何かが置いてある。



「ある····もう2本の蝋燭が······」


ウチが推測していた通り、間接照明の光が届かない範囲に、2本の蝋燭が置いてあった。


ウチはその1本にを移した。


蝋燭のは、何の問題もなくともった


「やった·····!!」


ウチは小さく喜んだ。やっぱりこの試練は、全員が争うことなく生き残れる試練だったんだ。




グラッ―――――――



三度みたび蝋燭が倒れる。ウチら3人は慌ててをすくう。


どうやら生きている者全員が蝋燭にともし終えると蝋燭が倒れる仕組みのようだ。


さっきの部屋では、龍吾さんが浄眞さんのを消してしまったから、それが更なるミスリードを呼んでしまった。


どこまでも想狐さんに遊ばれている。本当に意地の悪い試練だ。


「私は、奪わなくていい命をこの手で奪ってしまったというのか······私が、勝手な解釈をしたばかりに····」


龍吾さんは激しく動揺していた。生き残りだと思って周りを蹴落としたら、実は全員生き残れたなんて知ったら、とてつもない罪悪感に襲われるだろう。


これが想狐さんが見たかった、人の絶望の顔····。


本当は最後の部屋でゆっくり味わうつもりだったのだろうか。


ウチらはゆっくりと更に地下へと降りていった。


そして蝋燭はやはりあった。


縦一列に、そして間接照明の光がしっかりと届く位置に。


「蒼さん、やりましたね·····私たち、これで合格くりあですよね····?」


「だと思います未緒さん····本当に良かった·····」


ウチと未緒さんは喜びを分かち合う。


そして、ゆっくりとの元へと歩く。


「さぁ、龍吾さんも――――」


ウチがそう言い振り返ると、龍吾さんは下を向いていた、


「龍吾さん····?」



龍吾さんは大きな覚悟を決めたような顔で俯きながらもしっかりと話す。











「私は、この先へは行けないよ。どうか私のを、君たちの手で消してくれないか?」






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