異世界転移や並行世界といった題材は、もはや“手垢のついた設定”とも言われがちだ。だが、本作はその前提を逆手に取り、驚くほど知的かつ緻密に再構成している。最初は「よくある転移もの」かと思った。だが読み進めるうちに、その先入観は次第に剥がれ落ちていった。
少佐と医者による尋問、そして「嘘はついていない」「彼は無縁だ」という台詞──そのすべてが伏線となり、「この世界がどういう構造で成り立っているか」「敵とは何者なのか」という真相が、静かに、しかし確実に浮かび上がってくる。特に、「繋がり」「複製体」「合わせ鏡」などの言葉は、単なる設定の説明ではなく、哲学的な問いを含んでいた。