大嫌いな幼馴染み魔女と許嫁になった

宮坂大和

第1話 大嫌いな許嫁

「ふっざけんなよ! こんなクソアマ無理に決まってんだろうが!」

「はぁ!? それはアタシのセリフなんですけど! こんなボケナス絶対に無理だからね!」

「誰がボケナスだ、こら!」

「そっちこそ、誰がクソアマよ!」


 高校二年生に上がった今日。俺、斎藤総司さいとう そうじに許嫁が出来た。相手はこいつ、花咲姫乃はなさき ひめの。俺の幼馴染だ。やや色素の薄い茶色の髪を左に結ったサイドテール。ちょっと切れ目のエメラルドグリーンの瞳に赤色のメガネを掛けている。肌は白雪のように綺麗で陶器のように滑らか。小柄で華奢だが、意外とメリハリのある体つきをしている。はっきり言って、そんじょそこらの女より圧倒的に美人でいい女だと思う。

 ただ。ただ、だ。


「絶対にありえねぇから!」

「だからそれは、アタシのセリフだって言ってんでしょ!」


 俺とこいつは、壊滅的に相性が悪い。俺とこいつを一言で表すなら、水と油。または、犬猿の仲というやつだ。顔を合わせれば喧嘩が始まり、口を開けばお互いに罵倒し合う。それが俺とこいつの日常。

 そんなやつと、今日から許嫁だぁ? ふざけるのも大概にしてほしい。


「こら、総司。姫乃ちゃんと仲良くしなさい。これから末永く一緒にいることになるんだから」

「姫乃も、総司君にそんなこと言わない。そんなんじゃ仲のいい夫婦になれないわよ」

「だから俺はなる気ないっての!」

「だからアタシはなる気ないっての!」

「あらあら〜、息ぴったりじゃない〜」

「これはいい夫婦になれそうね」


 全然話聞いちゃいねぇな、おい。本当にもう、母さんもおばさんも……。


「そもそもお母さん! なんでアタシがこのバカ男と許嫁にならなくちゃいけないのよ!」

「なんでって、そんなの姫乃が魔女だからに決まってるじゃない」

「うぐっ……」


 そう。こいつ、花咲姫乃は魔女だ。魔法という不思議な力を使うファンタジーな人間だ。

 世の中には、不思議な力を持ってるやつがちょいちょいいる。例えば、霊感が強いやつ、動物と話せるやつ。そんな感じの類いで、こいつは魔法が使える魔女だ。本当かどうかは知らんが、戦国時代から続く魔女の家系らしい。


「で、でも……こいつじゃなくても、他の人でもいいじゃん」

「じゃあ、総司君以上に適任な男の子を連れて来ることね」

「う、うぅ〜」

「総司君も、姫乃が居なかったら困るんじゃないのかなぁ?」

「……ちっ」


 おばさん……相変わらずいい性格してる。確かにおばさんの言う通りだ。俺は体質的に、こいつは将来的に居ないと困る。それが分かってて言ってるんだもんなぁ。

 魔力。魔女が魔法を使う時に必要とするものだ。まぁ、ゲームとかでよくあるMPみたいなものだな。その魔力ってのは、魔女にとっては必要なエネルギー源だが、俺みたいな普通の人間にとっては劇毒になる。んで、俺はその魔力ってのを無意識に体に取り込んでしまう体質だ。

 どこから? っていうと、まぁその辺から、らしい。草木や川、風や土には魔力があって、それを吸ってしまっているとのことだ。

 だから俺は、体に溜まった魔力を定期的にこいつに抜き取ってもらわないといけない。じゃないと命に関わる。

 んで、こいつは、魔女の家系を残すために何がなんでも子孫を作らなくちゃいけない。ただ一つ問題があって、子供を作る過程で、こいつの持っている魔力が相手にも流れてしまう。そうなった場合、相手は即死してしまう。じゃあどうすればいいか? というと、俺のような魔力を取り込んでしまう体質のやつが必要になる。魔力を取り込めるということは、魔力に対して多少の耐性があるということだ。そんでもって、俺のような体質の人間はかなりのレアだ。

 だからまぁ、俺とこいつはお互いに都合のいい関係ともいえる。好き嫌いを除けばな。


「ま、姫乃も総司君も諦めて許嫁になっちゃいなさい」

「…………」

「…………」

「てか、二人がなんと言おうが、拒否権はないんだけどねぇ」


 ちっ、母さんめ……他人事だと思って、好き勝手言いやがって。自分の親じゃなかったらぶん殴ってやるところなのに。


「ごめん、お母さん。ちょっとこのボケナスと二人で話させて」

「えぇ、いいわよ」

「ほら、こっち来て」

「ちっ。分かったよ」


 気に入らないけど、確かにこいつと少し話をする時間がほしい。

 俺はこいつのあとに続いて庭に出てきた。


「で? どうすんの?」

「どうするもなにも。仕方ねぇだろ……」

「そうね……」


 分かってる。俺らがどんなに嫌がったところで、この決定を変えられないことくらい。


「はぁ……ほんとに最悪。なんで、こんなボケナスと」

「それはこっちのセリフだ。クソアマ」

「ぶっ飛ばされたいの?」

「やってみろ。クソ魔女」


 ほらな。俺とこいつはいつもこうだ。

 相性は最悪。絶対に上手くいくわけがない。だけど、残念なことに俺はこいつをこいつは俺を必要としている。本当に最悪だ。


「はぁ……お前のことは大嫌いだけど、仕方ないから許嫁になってやるよ。バーカ」

「そうね。アタシも大嫌いだけど、仕方ないから許嫁になってあげるわ。バーカ」


 ――――

 ――


「話はまとまったの?」

「まぁ……一応な」


 あれ? おばさんどこ行ったんだ?

 リビングに戻ると、おばさんの姿はなく母さん一人だけだった。


「おばさんは?」

「あぁ、今鍵を取りに行ってるわよ」

「鍵?」


 鍵って何の鍵だ?

 いや、そもそも何で今なの? 全く意味が分からんぞ。


「あ、二人とも戻ったんだ。思いのほか早かったね」

「お母さん、鍵って何?」

「ん? 二人の新居の鍵だよ」

「「……は?」」


 新……居……?

 ちょ、ちょっと待て……。とてつもなく嫌な予感がする。自分で言うのもあれだが、俺はバカではないつもりだ。その俺の頭が、今の会話から出たピースを一つ一つはめていく。そして一つの答えが導き出された。

 それは考える限り最悪の答えだ。


「な、なぁ……おばさん。ま、まさかと思うけど……」

「うん、そうだよ。今日から姫乃と総司君は、一緒に暮らしてもらいます」


 ま、まじかよ……。

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