迷宮学園の落第生
桐地栄人
序章 迷宮学園の落第生
序話
――中央迷宮20階層にて。
濃霧のような闇が洞窟を包み、固い岩肌に響く足音は、まるで深淵が囁くように湿っていた。
「ダークショット」
俺の指先から放たれた漆黒の弾丸が、呻きながら突進してくるオークソルジャーの顔面を抉る。
「プギィィィ――!!」
顔面をえぐられるように吹っ飛ばされたオークソルジャーは、締め殺される豚のような鳴き声を上げながら悶え苦みながら、黒いモヤとなって消えていく。
それを確認すると、俺に向かってくるもう一体の魔物に視線を向ける。視線の先から黒い靄となったオークソルジャーの跡を踏みつけながら、装甲の厚いオークジェネラルが大盾と槍を構え、猛然と突進してきていた。
「プギャァァァァァ!!」
俺は再び右手をかざし、魔力の奔流を収束させる。
「ダークショット」
黒弾が真っすぐに飛んでいき、吸い込まれるように大盾に直撃した。金属音とともに衝撃波が走り、オークジェネラルは盾ごと吹き飛び、地面を転がっていく。
俺は感情の波一つ立てずに、呟くように追撃し続ける。
「ダークショット、ダークショット」
転がるオークジェネラルに無慈悲な連射を浴びせてみるが、大盾でなんとかそれを受け止めていた。
このまま圧殺してもいいが、流石に魔力が無駄だ。そう感じた俺は使う魔法を変える。
「……ダークネス」
「プギィイイィィ――!!」
大盾を構え、ダークネスを防ごうとしたオークジェネラルだが、座標指定のこの闇魔法は盾では防げない。
黒い霧がオークジェネラルの顔面にまとわりつきその豚面の顔を覆う。
それは視覚を奪う純粋な闇の塊だ。大盾での防御は意味をなさず、オークジェネラルは苦しげに顔を掻きむしる。だが、何も掴めず、ただのたうつばかり。
のたうつオークジェネラルを冷徹に見下ろしながら、トドメを刺そうとゆっくり近づく。
そして、腰の剣を抜こうとした時だった。
背後から何か羽ばたきのような音が聞こえてくる。
即座に振り返り目を凝らすと、少し薄暗い洞窟内の奥から何かが飛んでくる。
「グレーターバットか」
不規則な動きをしながら飛んでくる魔物の正体。それは1メートル近い大きさをしたコウモリだった。
「こいつらの悲鳴でも聞いてエンカウントしたか。しょうがねぇ」
グレーターバット目掛けて手をかざし、再度魔法を唱える。
「ダークネス」
オークジェネラルに放ったものと同様、狙った位置に闇が突然現れる。
だが、不規則に飛ぶグレーターバットは俺のダークネスを軽々と避けてしまう。
「ダークショット、ダークショット」
魔法を変えて攻撃を仕掛けるが、不規則な動きをするグレーターバットに避けられてしまう。
このまま魔法を放ち続ければいずれ当たるだろうが、高々グレーターバット一体に魔法を放ち続けるのはMPが勿体無い。
俺は静かに呟く。
「仕方ない。
黒い無機質な画面が俺の目の前に展開され、視界にステータスが浮かび上がる。
[小鳥遊翔/レベル32][選択:相園花美]
[覚醒度:39%]
物理攻撃力 23
魔法攻撃力 56
防御力 32
敏捷性 38
[スキル][選択:相園花美]
闇魔法 レベル3
風魔法 レベル2
魔法攻撃力増加 レベル2
敏捷性増加 レベル3
魔法特化の今のステータスではなく、物理攻撃特化のステータスへ変更する。
[小鳥遊翔/レベル35][選択:赤崎研磨]
[覚醒度:42%]
物理攻撃力 43
魔法攻撃力 23
防御力 48
敏捷性 46
[スキル][選択:赤崎研磨]
剣術 レベル3
剣聖 レベル1
物理攻撃力増加 レベル3
敏捷性増加 レベル3
ステータスとスキルが変更されたことを確認した俺は改めて腰の剣を抜き、グレーターバットに構える。
「キャッキャッキャッ!」
グレーターバットはそんな不快な声を上げながら不規則に飛び、かなりの速さで俺に突撃を敢行する。
数秒の後、待ち構える俺の目の前まで迫るグレーターバットに剣を構えたまま待ち受ける。
「キ――――――――!!」
不快な叫び声と共に飛んできたグレーターバットと交差する。
一瞬の交差――コウモリの爪を紙一重でかわし、その首筋に剣を一閃。
首と胴体が亡き別れとなったグレーターバットは、ジメジメした地面をゴロゴロと転がりながら壁にぶつかり、すぐに黒いモヤを出しながら消えていく。
「……ふう。あとは――」
視線を戻すと、オークジェネラルももがき苦しみながら黒い靄となって消滅していくところだった。
同時に、俺の体内を熱が駆け巡る。血流が増し、心臓が高鳴る。
「これでやっとレベル
最近はレベルの上がりが遅くなってきたように感じる。もうこの階層は俺のレベルの適正階層ではないのだろう。
「そろそろもっと下に潜るか」
そう呟きながら、魔物達から落ちた魔石を拾っていく。
俺は諸事情により魔石やドロップアイテムを交換できない。その為、装備もこの階層で戦う探索者達よりもよりも遥かに低いグレードの装備を使っている。
同じ理由でパーティーも組まない為、確実な安全マージンが取れるこの階層で戦っているのだ。
しかし、流石に安全マージンを取りすぎの様にも感じ始めていたところだった。
「次はもっと下の過疎階に行くか。ふわぁぁぁあ……」
一仕事終えた俺は一つ欠伸をする。
「レベルも上がったし今日はもう帰るか」
今日の目標は達成された。それに満足した俺はその足で帰路に着く。
地上に戻り、寮へと続く通路を歩きながら、忘れていた“日課”を思い出す。
「あ、そうだ。
出てきた黒い画面を操作する。
[小鳥遊翔/レベル1][選択:坂田明人]
[覚醒度:2%]
物理攻撃力 4
魔法攻撃力 0
防御力 3
敏捷性 5
[スキル][選択:坂田明人]
転倒阻止 レベル1
学年最弱にして、レベルが上がらない永久の1レベ。
それが俺、『ザ・ワン』小鳥遊翔だ。
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