第1話 無邪気な呪い⑩
家に着いた時間が遅かったので、ハルトを風呂に入れてすぐに寝る準備をした。
二人を寝かしつけた後、あらためてリビングで妻と顔を突き合わせて話をする。
「比嘉先輩のお姉さんのお祓いは成功した。今後はハルトに不幸が降りかかる事もなければ、変な写真が撮れることもない。試しに向こうで何枚か写真を撮ってみたが、どれも普通の写真ばかりだった。ハルトの怪我が治ったら、また今まで通り幸せな生活だ。」
結論をまとめて妻に伝える。
すこし考えるような仕草をした後、妻から予想通りの言葉が返ってきた。
「何も問題ないようだけど、なんでそんなつらそうな顔をしてるの?」
「ハルトを助けるために犠牲を払う事になった。誰かはわからなかったがハルトの友達が死ぬ。おそらくさっき聞いた大山さんという子だと思う。」
覚悟はしていたが実際言葉にすると、自分のしてしまった事の重大さを改めて感じる。
そして大山さんは先ほど妻から聞いた、ハルトのことを羨ましいと口にしていた子だ。
正確にはハルトのクラスメイト大山リコ。
三階建てで広いリビングの我が家。
ゲームやおもちゃがたくさん並んでいる子ども部屋。
学校帰りに遊びに来ると、おやつを出してくれる優しい母親。
全てが大山リコの憧れだった。
最近遊びに来た時に、妻に対して羨ましいと漏らしていた。
妻曰く、大山リコの家は少しネグレクト気味の家庭らしい。
5年生に兄もいるが、兄弟で放置されているようだ。
晩御飯だけは出るが、朝ごはんや昼ご飯は作ってもらえない。
運が良ければコンビニにご飯を買いに行くお金が置いてあるらしいが、給食のない日は晩御飯まで何も食べない日もあるという。
そのため妻は遊びに来た時多めにおやつを出してあげたりするらしいが、児童相談所に通報はしていない。
私は妻と授業参観に行く機会も多いが、大山リコの家族は見た記憶がない。
私の言葉を聞いて大きく目を開いたあと、妻は矢継ぎ早に尋ねてきた。
「なんで大山さんところの子が死ぬの?それはあちらの親御さんに知らせなくていいの?助かる方法はないの?」
興奮した妻をなだめつつ、私はメイコさんと話した内容を妻に伝える。
ハルトを襲った怪奇現象は呪いだったこと。
ハルトが恨みを買って呪われたわけではないこと。
呪ったと思われる大山リコは羨ましかっただけで、ハルトに対して全く悪気はなかったということ。
最後にハルトを救うには呪い返ししか方法がなく、おそらく呪った相手には数倍の不幸が訪れ命を落とすであろうということ。
全てを聞いた妻は涙を流しながら、助かる方法はないのか?親御さんに伝えないとと言ってきた。
「助かる方法はない。メイコさんがないと言っていたのだから、少なくとも何もわからない自分たちに見つけられるわけがない。そして親御さんに伝えたい気持ちはわかるがなんて言うんだ?おたくのお子さんは呪い返しで、もうすぐ亡くなりますとでも言うのか?俺たちだってハルトのことがなければ呪いなんてもんは信じられないんだ。頭がおかしい奴が来たって思われるだけだぞ。しかも自分たちが呪い返ししたと伝えるのか?」
自分も帰りの新幹線で考えた。
しかし解決策は何もない。
今回のことは不幸な事故だと自分に言い聞かせ、何もなかったことにするのが最良の選択だと思った。
息子の友人、しかもそれなりに仲のいい子が亡くなると聞かされてすすり泣いている妻。
私と違い大山リコと面識があり、優しくしてあげたのだからショックは隠せないのだろう。
もし私ではなく妻がメイコさんのところに行っていたら、私ほどスムーズに決断できたのだろうか…。
そんなことを考えても何にもならない。
席を立ちすすり泣く妻をおいて、何も言わず寝室に向かう。
寝室で寝てるわが子を見て罪悪感が少し消える。
『この子を守るためには仕方のない事だった』
おそらく私は今回のことを思い出すたびに自分を慰めるように言い訳をする。
ハルトの存在が精神安定剤になるのだろう。
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