第1話 無邪気な呪い⑤
比嘉先輩に指定された店は落ち着いた雰囲気の居酒屋であった。
若い女性の店員が店の奥にある個室へ私たちを案内する。
扉を開けると掘りごたつの席で、すでに比嘉先輩は座っていた。
「よお!久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ご無沙汰しております。」
佐々木先輩に続いて私も挨拶する。
「それなりに元気にしてるよ。今日は急に呼び出して悪かったね。どうしても黒田君に話さないといけない事があったんだ。」
案内してくれた女性の店員にドリンクを頼む。
ドリンクが到着するまでは佐々木先輩と比嘉先輩がたわいのない話をしていた。
しばらくして個室の扉がノックされ、さっきとは別の店員が私の前にウーロン茶を置く。
二人の先輩は生ビールを頼んだようである。
今から相談する事はわけのわからない内容なので、多少酔ってくれていた方がいいのではないか…。
自分が置かれている状況の現実味のなさにおかしくなる。
乾杯した直後、比嘉先輩が私に問いかける。
それは私を驚愕されるのに十分な一言であった。
「黒田君最近家族に良くない事が起こってないかい?」
佐々木先輩が伝えたのかと思い佐々木先輩をみるが、驚いた顔をして首を横に振っている。
「家族が事故に遭いまして…。幸い命に別状はなかったのですが、少し気になることがあります。」
「事故に遭ったのは子供だよね?何か変なモノが見える?聞こえる?」
「そうです。小学生の長男が事故に遭いました。直接見えたり聞こえたりはしないのですが、写真に変なモノが写るんです。」
私はそう答えて妻から送ってもらったハルトの写真を比嘉先輩に見せる。
何だこの先輩は?
何で知ってるんだ?
何を知ってるんだ?
不思議に思いながらも、あまりにもスムーズに話が進んだことに少し安心する。
となりで佐々木先輩は何一つ意味が分からないという顔をしていた。
「それで息子さんはこの黒いもやが写っている場所を怪我したの?」
答え合わせのように比嘉先輩が私に尋ねる。
「そうです。変な写真が撮れるようになったのは1週間ほど前で、昨日事故に遭いました。今朝写真を撮った時も同じような写真が撮れました。」
比嘉先輩が何ものかはわからないが、包み隠さずすべてを比嘉先輩に話した。
「なるほどね。夢で見た内容とおおむね変わりない。怒らないで聞いてほしいんだけど、黒田君の息子さん誰かに恨まれるようなことした?」
「わかりません…。友達とは仲良くやっていると聞いていますが…。」
「じゃあ黒田君は?何か恨まれるようなことしてない?不倫とかパワハラとか?」
「してません。パワハラできるような偉い立場でもないですし、残念ながら不倫できるほどモテません。」
比嘉先輩の質問に正直に答えたところで、佐々木先輩が口をはさむ。
「お前ら何を言ってるんだ!意味が分からない。写真てなんだ?ただの事故じゃないのか?夢ってなんだ?」
「あぁごめんね。佐々木君には何も話してなかったね。黒田君の家族が危険だったんで急いで呼び出してもらったんだ。」
「なんでお前にそんなことがわかるんだ?」
「うちは先祖代々変な力を持つ家系でね。沖縄出身という事で察して欲しいんだけど…。自分もたまに予知夢じみたものを見る事があるんだ。」
「それで黒田の家族の事故がわかったのか?」
「いや、そうじゃない。黒田君の家族に良くないモノが憑いている事がわかった。事故はその結果起こった事象だろう。」
「写真てなんだ?事故と関係があるのか?」
私は佐々木先輩にもハルトの写真を見せた。
「息子が事故で怪我をした所と、この写真で黒いもやがかかっている場所が同じなんです。」
「心霊写真なのか?」
「わかりません。比嘉先輩なら何かわかるんでしょうか?」
写真について改めて比嘉先輩に尋ねる。
「非科学的なものが写っているという点では、世間一般で言われている心霊写真だろうね。」
「なんでハルトがこんな目に合うんですか?何が原因ですか?どうすれば治るんですか?」
助けを求める私に比嘉先輩ははっきりと答える。
「わからないし、僕には何もできないよ。見えるだけなんだ。」
せっかく解決の糸口が見えたと思ったのに…。
目の前が真っ暗になった。
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