第1話 無邪気な呪い①
「あなた、少し相談があるの…」
久々に仕事が早く終わり自宅に帰ると妻からそう切り出された。
わたし黒田晴彦は32歳で上場企業の中間管理職。
妻と息子二人の4人家族で、人並みの幸せを手に入れたつもりだ。
残業が多いので家族の時間を十分に取れてない事が悩みである。
そんな時に妻から切り出された話は予想もしていない内容であった。
「最近ハルトの写真を撮ると変に写るの」
ハルトとは小学2年生の長男のことである。
小学校に上がってから少しやんちゃになったが、友達も多く学校も楽しんでいると思っていた。
今も2階で5歳になる次男のユウトと仲良くゲームをしている。
「写真が変とはどういうことだ?スマートフォンの調子が悪いのか?」
妻の言っている事がよくわからずにそう尋ねた。
「カメラがおかしいわけじゃない。景色やユウトを撮った時はなにも異常がないの。ハルトを撮った時だけ変なのよ」
返事を聞いてもいまいちよくわからないという顔をしている私に妻は1枚の写真を見せた。
その写真はハルトが公園のジャングルジムに登っているところを妻が撮影したものだった。
よくある休日の風景だが、確かにハルトの顔付近と足の部分にオレンジ色のもやがかかっている。
「なんだこれは?光の加減じゃないのか?」
写真を見た感想を素直に口に出す私に妻は怯えるように他の写真も見せる。
リビングで弟とはしゃぐハルト、学校の帰り道で友達と笑顔のハルトなど見せられた6枚の写真にはすべてオレンジ色のもやがかかっていた。
写真をよく見ると、もやがかかっているのは全て顔の右上と左足首のあたりだ。
「心霊…写真か?」
思わず声に出したが信じられない。
昔はテレビで心霊写真特集が組まれるほど、オカルトブームの中心にあった心霊写真。
しかし今はデジタルカメラの時代どころか、高画質のスマホが普及し誰でも簡単に画像編集ができる時代である。
そんな時代に心霊写真なんて流行らない。
ましてやスマホのデータとして存在する写真が心霊写真?
どうすればいいんだ?
「わからない。でもスマホの写真で撮れた心霊写真なんてどうすればいいの?」
困惑する私に妻が問いかける。
「寺や神社でお焚き上げするわけにもいかないしな…。何よりハルトの身に異変はないのか?」
質問に質問で返した私に妻は答える。
「ハルトはいつも通りで体にも異常はないの。でもこんなことハルトに言えないし、学校で撮った写真にも写ったらハルトも不安がるかも」
確かに学校行事で写真を撮る機会なんてたくさんある。
1.2枚不自然な写真が混じっている程度ならその写真を省けばいいだけだが、特定の生徒の写真を全て省いて公開できるわけがない。
「いつからだ?」
「先週の金曜日に撮った写真から…。」
今が火曜日なので異変が起こってから5日ほどたっている。
事態が急を要するのかすらわからない。
「少し考えさせてくれ。何かツテやその分野に詳しい奴がいるか探してみる」
全くいい案が浮かばない私はそう答えるのが精いっぱいだった。
その後は寝るまで何をしたか覚えていない。
ハルトの写真を思い出しつつ、どうすればいいか考えながら食事と風呂をすませてベッドに入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます