ピアス【Re.make】
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第0話 【兼代ハル】謝罪動画Ⅰ
『はじめまして。作家の、兼田ハルと申します。
この度は、連日世間を大きく騒がせてしていることに対して、心よりお詫びを申し上げたく、この場に立っております。一連の報道により、期待を裏切ってしまった方、ご心配・ご迷惑をお掛けした方、その全てに、改めて、お詫び申し上げます。申し訳、ございませんでした。
僕の身の回りは今、自分でも把握しきれないほど混沌とし、何が正しいのか、誰を信じればいいのか、全くわからない状況です。最早事実が何だったのか、本当は自分が何をしたのか、はっきりとしないことも多くなってきました。
しかし、今回、公表していなかった素顔でこの場に臨み、発言をする機会を自分で作ったのであれば、何か得るものがなくてはならないと思いました。何もかもを失った僕が、今更何か手にできるものがあるのか、自分でもよく分かりませんが、恐らく最後になるであろうこのチャンスを逃すべきではないと思っています。
世間が今、僕を凶弾するのにふさわしいとして掲げている、報道の内容の根拠とは、一体何なのでしょうか。顔も知らないどこぞの記者が書いた内容の、何が信じるに値するのでしょうか。
それは間違っている、こちらの言うことを信じてくれと言いたいわけではありません。ただ、せめて僕の言うことも、報道と同じ土俵に乗せてほしいと思っているだけです。形だけでも校閲を潜り抜けて正式に出版物として発行された週刊誌と、これまで素顔を明かしたことのない、駆け出し作家だった者だと名乗る僕の言葉、どちらの方が怪しいのかを考えると、一目遼前のようなきもしますが、そんなことは別にどうでもいいんです。失うものなんて、今の僕には何もないですから。
これからするお話は、恐らく、皆さんが期待しているような、派手で劇的な話にもならないでしょう。誰の身の回りでも起きうる…いや、起きて当たり前のことだと言ってもいい。それほどまでに、当人…少なくとも僕にとっては、日常の一つであるつもりでした。
これは、仮にも作家として、自分の言葉を世に送り出した僕の、世間に公表する最後の文章になります。これ以上、人様ご迷惑をお掛けするつもりはありません。信じる信じないを抜きにして、誤解を容認したような状態で、この世を去りたくないだけなんです。
それではどうかよろしくお願いします。まずは、―――』
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