自分の生き方
ー「色々な夢」ー
今このエッセイを読んでいる、あなたに夢はあるだろうか? 幼い頃から抱き続けた壮大な夢かもしれないし、最近見つけたささやかな目標かもしれない。公務員や教師として社会に貢献したい、医師や薬剤師として人の命や健康を支えたい、あるいはクリエイターとして新しい価値を生み出したい。その形は人それぞれ、数え切れないほどあるだろう。
ー「JR東日本への憧れ」ー
私にも、かつて抱いた明確な夢があった。それは、JR東日本で働くこと。特に、幼い頃から魅了されてやまなかった電車の運転士になることだった。あの巨大な鉄の塊を、自らの手で操り、多くの人々を目的地まで安全に運ぶ。その責任感と、広がる景色への憧れは、私の少年時代の中心にあった。社会に出てからも、電車に乗るたびに運転席を覗き込み、「自分があそこにいたら」と想像することもあった。今でも、電車を運転してみたいという気持ちは、私の心の奥底に、静かに、しかし確かにくすぶっている。
しかし、人生は時に、思い描いたレールの上をまっすぐに進ませてはくれない。私は、JR東日本で働くための採用試験の壁や、求められる適性、体力といった現実的なハードルに直面した。残念ながら私には、社員としてJR東日本ではたらく能力が、どうしても足りないと感じざるを得なかったのだ。夢への扉が目の前で静かに、しかし確実に閉ざされていく。
ー「株主という選択肢」ー
ふと別の道があることを教えてくれたのが、「株主として生きる」という選択肢だった。働くこととは全く異なる形で、社会や企業と関わる道。それは、満員電車に揺られてオフィスに通う必要もなく、特定の場所に縛られることもない、時間と場所に囚われない自由な生き方に見えた。最初は半信半疑だった。株?投資?それは自分とは縁のない、遠い世界の話だと感じていたからだ。しかし、調べていくうちに、株を持つことが単に投機的な行為ではなく、企業の「オーナー」の一人となり、その活動を応援し、共に成長を目指すことなのだと知った。かつてJR東日本で「働く」ことで関わりたかった社会に、今度は「株主」として別の形で関われるのかもしれない。そう思った時、私の心に新しい光が差し込んだ。
ー「デメリット」ー
もちろん、株主であることには、大きなデメリットが伴う。まず、市場が動いている間は常にストレスとの戦いだ。画面に表示される自分の資産は、刻一刻と評価額を変えていく。時には、ほんの数時間の間に数万円、いや数十万円といったまとまった金額がマイナスになることもある。そのたびに、不安に襲われ、冷静な判断ができなくなりそうになる。特に、保有している銘柄の業績が悪化したり、市場全体が大きく下落したりする際には、夜も眠れないほどのプレッシャーを感じることもある。全て自己責任の世界であり、頼れるのは自分自身だけ、という厳しさを日々痛感している。
さらに、精神的にやっかいなのは、周囲からの心ない視線や言葉だ。「株主」であることを話すと、途端に相手の態度が変わることがある。「良いよなお前は」「楽して稼ぎやがって」「詐欺みたいなことしてるんじゃないの」といった、ねたみや誤解に基づいた言葉が、特にインターネット上のSNSなどでは容赦なく飛び交う。「お金持ちなんだから苦労なんてないだろう」という一方的な決めつけや、投資という行為そのものに対する根強い偏見を感じることも少なくない。株主であることをオープンにした途端に、それまで何気なく交流していた人からのフォローが外れたり、連絡が途絶えたり、といった経験も決して少なくない。これは、資産が減る金銭的なリスクとはまた違った、社会的な、あるいは人間関係における「圧力」だと感じている。働くことが「普通」と見なされがちな社会の中で、「株主」として生きることは、まだまだ特殊な目で見られる現実がある。
ー「メリット」ー
しかし、デメリットが大きい一方で、メリットも確かに存在する。例えば、配当金という形での直接的な「報酬」を受け取れることだ。これは、自分が応援し、投資した企業が生み出した利益の一部を受け取るということであり、その企業活動に参加し、貢献したことに対する「ありがとう」と言われているような、ささやかな、しかし確かな喜びを感じる瞬間だ。また、株主優待も魅力の一つだ。その企業の商品やサービスをお得に利用できるのはもちろん、単なる割引以上の、企業との物理的な「つながり」や、応援している企業からの「贈り物」のような温かさを感じられる機会となる。そして、株主総会での議決権。たとえ保有比率が小さく、経営に与える影響は微々たるものであっても、企業の重要な意思決定プロセスに、株主として意見を表明し、参加できる権利を持つことは、社会の一員として企業に関わっているという実感を与えてくれる。
ー「働くのではなく株主」ー
株を持つことで、これまで全く知らなかった企業の事業内容や、属する業界のこと、さらには国内外の経済情勢について、主体的に調べ、考えるようになった。これは、自分の知識を深め、視野を広げ、社会や経済の仕組みに対する理解を深めることに繋がった。かつてJR東日本で「働く」ことで関わりたかった社会への情熱は、今は様々な企業の「株主」として、その活動や成長を願い、見守るという、より広がりを持った形に変わったのかもしれない。特定の組織に属して働くという形ではなくても、経済活動の一端を担い、社会の一部に確かに参加しているという感覚は、フリーランスとして働くことと組み合わせながら、私にとって大きな支えとなっている。
かつて目指した「働く」という社会との関わり方と、現在の「株主」という関わり方。どちらが優れている、劣っているという単純な話ではないだろう。組織に属して仲間と共に一つの目標に向かって汗を流し、日々の業務を通じて具体的なサービスや価値を社会に提供することには、間違いなく尊い価値がある。一方、時間や場所に囚われず、複数の企業や産業、そして経済全体と関わることで、よりマクロな視点から社会を見つめ、自分自身の資産を増やすことを通じて、人生の選択肢を広げていくことにも、また異なる意義がある。
私にとって、JR東日本で働くという夢は叶わなかったけれど、株主としてJR東日本の株を持つことはできる。それは、かつての夢を完全に諦めたわけではなく、別の形でその対象に関わり続けているということなのかもしれない。そして、それはJR東日本だけでなく、多くの企業に対しても言えることだ。私は「働く」という形ではなく、「株主」という立場で、社会と関わる自分なりの方法を見つけたのだ。
もちろん、株主として生きることは、決して楽な道ではない。市場のストレスや、周囲からの偏見に晒されることもある。しかし、それと引き換えに得られる自由や、企業との新たな繋がり、そして何よりも、自分で考え、自分で決断し、その結果を受け入れるという自己責任の中で得られる成長は、私にとってかけがえのないものだ。
ー「夢は見つかる」ー
あなたにとっての「夢」は何だろうか? そして、その夢に向かう道は、本当に一つしかないのだろうか? 私のエッセイが、あなたの夢の形や、社会との関わり方について、改めて考えるきっかけになれば幸いだ。夢の形は多様である。そして、自分らしい社会との繋がり方は、探せばきっと見つかるはずだ。
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