執着という言葉から、皆さまはどんな感情を思い浮かべますか? 私は、諦めても諦めきれず、何としても手中に収めずには気が済まないような、一筋縄ではいかない情念を連想しました。
そんな感情に、「殺人」という不穏なワードが結びつけば――ドロリとした粘性の重々しさに緊張しつつ、どんなドラマが展開されていくのだろう、とミステリ好きとしてわくわくせずにはいられません。
本作の主人公・中洲川篤志が、大学時代に付き合っていた同級生・牧添結愛には、篤志との交際期間中に「ある男が起こした監禁事件の被害者になった」という過去があります。結愛の命こそ取られなかったものの、篤志は彼女を上手く慰められず、二人は破局を迎えています。
心に苦い痛みを抱え続けた篤志は、やがて埼玉県警察の巡査部長となり、ある山中への死体遺棄事件の捜査に当たり――かつて結愛を監禁した男が、今回の事件に関与している疑惑を抱くのです。
あのときの魔の手が、またしても結愛に伸びるのではないか。そんな危惧から、警察官という立場で、因縁の男と相対することになった篤志は、現在の殺人事件を解決するために、過去の監禁事件と改めて向き合っていきます。
遺棄された死体の身元、現在の事件と結愛との接点、結愛を監禁した男の感情、そのとき結愛は何を思ったのか――痛みを伴う記憶をたどりながら、使命感を持って情報を集める篤志の姿から、私は全エピソードを通してうら寂しい陰を感じました。久しぶりに再会した結愛が見せる儚げな表情も、そんな哀しみを鏡のように映していたようにさえ思います。
幸せとは、何なのか。満ち足りた生き方をするということは、どういうことなのか――作中に散りばめられた謎を追う中で、そう何度も問われているような感覚も覚えました。人によって答えの見え方が異なる問いが、ブラックコーヒーのような苦みを読者の心に齎します。そして、寂寞感の後味を振り返りながら、思うのです。結愛のような状況に身を置いているわけではなくとも、囚われているのは私も同じかもしれないな、と。この作品で丹念に描かれた、人それぞれの感情に。
読み終えてから時が流れても、彼らのことをふとした瞬間に思い出す、まさに「執着」という言葉に相応しい爪痕を、心に残していったお話でした。ぜひ皆さまも、物語で描かれた「執着」の正体を探ってみてはいかがでしょうか。そのとき見出される姿は、きっと十人十色の形をしているのだと思いますが――あなただけの「執着」の答えを、見つけてみてくださいね。
身元不明の男性の惨殺死体が発見されたところから物語が動き始める本作。
過去、恋人がストーカーに監禁されたことを機に関係が切れてしまった経験を持つ、若手刑事が主人公です。
その遺体発見現場近くで、例のストーカー男の姿を見かけたことから、過去と現在とをつなぐ細い線が見えてきて——
終始シリアスで緊迫感のある物語です。
捜査の展開などにリアリティがあり、まるで刑事ドラマを見ているようでした。
ストーリーが進むにつれて明らかになってくる真相と人物相関は、意外性とともに深い納得感もあり、ヒューマンドラマとしても優れた作品だと感じます。
ミステリーの要素があるためあまり多くは語れませんが、因縁のストーカー男・細間のキャラクターがすごくいいです。絶妙。
また主人公の上司にあたるベテラン刑事がいい味の人物で、思わず実写キャストをあれこれ考えたくなります。つまりドラマ化希望です。
皮肉な真相のお話ではありますが、事の顛末には不思議な清々しさもありました。少なくとも、ある人たちには救いが見える。
総じて、とても読み応えのある作品でした。本格サスペンスをお求めの方におすすめしたいです!
読み始め当初、「執着」が際立っているタイトルで、どのような展開が待っているのか、もしかしたら、読むとどろどろなのか、もしかしたら、タイトル負けなのか、わくわく感もありながら、先入観を持ってはいけないのでしょうが、ミステリーとして楽しむ気持ちで一日の楽しみとさせていただきました。
本作で気を配って読んでいたのは、愛の行方です。
過去、現在、そして未来に亘って。
隠れたテーマとして、「あなたは誰かを好きですか」というのがあると思いました。
できれば血の通う人間がいいのですが。
愛がないと血も凍ってしまうでしょう。
「好き」、それの度合いが増すと、「執着」なのでしょうね。
これだけの事件を破綻なくラストへ持ってこられたのは、綿密な設計をされた作者様とそれを書き上げた力だと思います。
是非、ご一読ください。