築ノ宮さんのおはなし その4




トランクス



築ノ宮さんがにこにこしながら戻って来た。


「ちょっとリフレッシュしてきます。」


と先ほどこの近くのビルにしばらく築ノ宮さん、寄り道。

その間渡辺さんと運転手さんはつかの間の休憩。

近くの喫茶店でコーヒーを一服。うめぇ。


しばらくして戻った築ノ宮さんが車に乗り込んで来ると、

ショッキングピンクの何かを持っていた。


「おかえりなさいませ。ところでそれは?」


渡辺さんがちらりと築ノ宮さんの手元を見る。


「トランクスです。」


築ノ宮さん、それを広げる。


「……、」


目にも鮮やかなショッキングピンク、

そして後ろにはリアルな赤富士イラストに

HTMLカラーコードなら#0000ffの青で

でかでかと開運と書いてある。

ちなみに赤富士の赤は#ff0000な。

輪郭は黒だからピンクの中でもはっきり見えるの。

デザイナーさんのセンス爆発。


「ちょっと葛飾北斎味があるでしょ。

これに波があれば嬉しいのですが、

開運の青でまとまっていますから素晴らしいセンスです。

でも本当は開運の字は黄色で波が青なら完璧です。」


築ノ宮さんの頭の中では色の三原色大集合。


「……どこでこれは買われたんですか?」

「いえ、持っていた方から譲っていただいたのです。

それでその方にお返ししたいので、

このブランドのトランクスを2枚買って来て下さい。

明日お渡ししたいです。」


築ノ宮さんは渡辺さんにスマホを見せた。

そこには地味目のセンスの良い下着があった。


「分かりました。手配します。」


渡辺さんはかの下着をどこで買ったかが本当は知りたい。

だがとりあえず頼まれたこと優先。


しかし、この贈り物のセンスを

築ノ宮さん自身に使うのはどうして出来ないのか、

渡辺さんにはそれが疑問だ。






健康診断 1



今日は築ノ宮さんが働いている会社で健康診断。

それぞれ医者に行ってもらうのもいいが、

築ノ宮さんの会社では集団検診をする。

築ノ宮さん、その中に混じって並んでいる。


一応偉いさんなのでどこかで人間ドックでも

受ければいいのにと思う人もいるが、

築ノ宮さん、みんなと並んでるのがなんとなく好き。

周りも以前はおっ、本部長がなぜいる扱いだったが

毎年にこにこしながら並んでいるのでもう慣れた。


すると後ろから女性の話声がする。


「私、注射嫌いなのよ、痛いし。」

「すぐ済むから。」

「痛いのやだなー。」


他愛のない話だ。

築ノ宮さん、振り向く。


「痛くないおまじない、教えましょうか?」


女性達は築ノ宮さんを見てびっくりする。

どうも今年入社したばかりの社員らしい。

まさか重役がいると思わなかったようだ。


「いたいのいたいの、飛んでけーってするんですよ。

ちょっとした呪術です。」


築ノ宮さん、にっこり。

女性達はほーーーっ、

周りの人もなんとなくほのぼの。


ホントかよーと思いつつ、

雰囲気は良くなったのでそれでよし。






健康診断 2



心電図、

モニターを見ながら技師が言った。


「正確な結果は後からご報告しますが……、」


築ノ宮さん、技師を見る。


「私には分かります。

築ノ宮様の心臓には毛が生えてますね。」


技師の目がギラリと光り、

築ノ宮さんはにやりと笑う。

この技師の人は優秀だと築ノ宮さんは思った。


要するに図太いのよ、築ノ宮さんは。






健康診断 3



「ゆっくりでいいですから、

白い液体は全部飲んでくださいね。」


バリウムだ、

それを飲む前に発泡剤を飲み、胃を膨らませて撮影するのだ。

バリウムはイチゴ味だ。


撮影する台に乗りぐるぐると回される。

結構きつい。

だが健康のためよ、

頑張れ、つっきー!胃はストマック、食べるために必要な臓器よ!

あんたよく食べるでしょ?


とりあえず胃の検査でもう終わり。


実は築ノ宮さん、今日は朝は禁食。

朝食を喰ってないのよ。


「バリウム、美味しかったなー。」


築ノ宮さんは下剤を受け取りそれを飲みながら呟いた。






語呂合わせ 1



築ノ宮さん、運転中に信号で止まると

近くの車のナンバープレートで語呂合わせをする。


「5519ですか、ごーごーいく、かな、イケイケですね。

1871はうーん、いやな、いやなひと、

水商売のお姉さんが最近来ないお客さんに

もう、いやなひとウフンでしょうか、そうしましょう。」


語呂合わせには全く意味はなく、

築ノ宮さんもこだわりがある訳でもない。

ただ信号待ちの間が暇なだけ。


ナンバープレートには鏡文字のものや

ぞろ目ナンバーもある。

人によってはそれでないとダメというのも、

心の安定が保たれるのならそれでいいと

築ノ宮さんは思っている。


信号が変わり、築ノ宮さん走り出す。

そしてふっとある車のナンバーが見える。


「1123ですか、」


築ノ宮さん、ピンとくる。


「1123、いいにいさん……、」


なんだかこれはちょっと欲しいかもと

築ノ宮さんは思った。






編み物



お昼休み、渡辺さんが編み物をしていた。

昼食から戻って来た築ノ宮さん、それを見る。


「珍しいですね、編み物ですか?」

「レース編みですよ。

最近編み物がブームなので

その記事を見ていたら編みたくなって。」

「らしいですね、ハンドメイドが流行っているとか。」


渡辺さん、手元の編んだものを広げる。


「しばらく編んでいませんでしたが、

なんとなく覚えているものですね。」

「綺麗ですね。」


築ノ宮さん、あまり編み物をしっかり見た事が無い。


「私にも出来るでしょうか。」

「やってみますか?」


渡辺さん、カバンから編み物の道具を取り出す。

凝り性なのでいつもかぎ針のセットも持っているらしい。

糸も取り出す。

それを開くとざっと何本かのかぎ針。

きらきら、ぴかぴか、セットは結構高いのよ。


私もかぎ針は持ってるけどビンボーだから

こそこそ買い集めたものばかり。

みんなばらばらよー、

洋品店の閉店の時に半額の物買い漁ったわよ。


「凄いですね、こんなに種類があるのですか?」

「糸の太さで変わりますから。

またメーカーでも微妙に違うんですよ。

でも糸は別として道具は良いものと私は考えていますので。」


道具に凝るのは男女変わらないなーと築ノ宮さん。

渡辺さんは築ノ宮さんに喜々として編み方を教えるが、

築ノ宮さんが編み始めてはっとする。


「お待ちください。」


真剣な顔で渡辺さん、築ノ宮さんを見た。


「なんでしょうか。」

「築ノ宮様は術師です。」

「はい。」


渡辺さんは自分が編んだ物を見た。


「編み物は一目一目こつこつと編み上げるものです。

それに気持ちを込める事も出来ると私は思っています。

築ノ宮様は間違いはないと思いますが……、」


築ノ宮さん、にっこり。


「ご安心ください。心得て編んでみます。」


築ノ宮さん、渡辺さんに聞きながら

手のひらに乗るほどの小さな袋を編み上げた。


「それはどうなさるのですか?」


築ノ宮さん、その口を他の糸で縛る前に小さく呟く。


「お守りですよ、

渡辺さんの身体守りとして。」


築ノ宮さん、にっこりと笑って渡辺さんに差し出した。

渡辺さん、びっくりした顔をしたが

嬉しそうにそれを受け取る。


「驚きました。でもすごくうれしいです。」

「いつもお世話になっていますから。

大したお礼になっていないかもしれませんよ。」

「いえいえ、最強の護符です。」


渡辺さん、築ノ宮さんが編んだ物を見る。

目はバラバラで正直出来はいまいち。

それでもボスの気持ちはものすごくうれしい。


「でも私には編み物は向いていないですね。

指がつりそうです。」

「慣れたら大丈夫ですよ。」


ホント、この人、中学生ぐらいまで

どうしようもないずる賢い腹黒クソガキだったのに、

こんなに立派になって

お姉さん(お姉さんだぞ、お・ね・え・さ・ん)的立場としては

嬉しい限りだわと渡辺さんは思った。






期間限定



会社帰り、ふっとスーパーに寄る築ノ宮さん。

いつものスーパー・ベリーベリーな。


夕ご飯は家政婦さんが用意しているので

デザートでもとアイスのコーナーに行く。


「最近は急に暑くなりましたし。」


冷凍ショーケースを見ると期間限定のアイスがいくつかある。


「色々ありますね。」


思わずカゴに入れ始める築ノ宮さん。

家政婦さんとその旦那さんの運転手さんと自分とで3個ずつ。

ぽいぽいぽいとテンポ良く。


築ノ宮さん、大急ぎで帰宅し

にこにこしながら家政婦さんにそれを渡した。

すると家政婦さん、少しばかり複雑な顔に。


「どうしたんですか?」

「実は……、」


冷凍庫を開けるとそのアイスが3個ずつある。


「家政婦さんも買ったんですか?」

「期間限定なのでつい……。」


その時玄関から声がする。


「ただいま。」


運転手さんだ。

築ノ宮さんと家政婦さんがそちらを見ると、

にこにこと笑っている運転手さんの手には大きな袋が……。


えーと、期間限定が6種類として3個ずつ買いました。

それを三人がそれぞれ買って来ました。

全部でいくつですか?

てか2×3も3×2も答えは一緒だろ?6だろ?

誰だよ、順番が違うからってバツにしたの。


とりあえず答えは54個な。電卓使ったよ。

まあつっきーなら喰っちゃうから問題なし。

冷蔵庫でかくて良かったな。






ダイラタンシー



「渡辺さん、シュークリームはピストルの弾を

防げるかもしれないらしいですよ。」


雑学の本を読んでいた築ノ宮さんが渡辺さんに言った。

偉い方とお話をすることが多いので、

そう言う雑学をいつもある程度頭に入れている築ノ宮さん。

すぐそばの机で渡辺さんは書類を読んでいる。


「シュークリームで、ですか?」

「シュークリームのクリームには

コーンスターチが含まれていて、

急な衝撃を受けると固体のように固くなるそうです。

ダイラタンシー現象で非ニュートン流体の一種だそうです。」

「そうですか。」


渡辺さんは読んでいた書類から目を上げた。


「でしたら今からシュークリームを買ってきますので

確かめてみますか?」


築ノ宮さん、思わずはっとする。


「確かめるって銃弾ですよ。」

「私は不確かな情報は信用しませんので。」


渡辺さんの目はひたと築ノ宮さんを見た。

彼女の目は座っている。

渡辺さんはすると言ったら必ずするのだ。

まずいと思った瞬間、


「冗談ですよ。」


そう言って渡辺さんは書類を再び見た。

築ノ宮さん、冷や汗。


子どもの頃、散々悪さをして渡辺さんに相当な迷惑を何度もかけた。

それでも平気な顔をしていた自分は

怖いもの知らずの愚か者だと改めて反省をする築ノ宮さんであった。



ちなみにコーンスターチの解説は

Google様のAIによる概要から引用しました。

ありがとうございます。

でも試す気はありません。

その前に食べます。撃ったら飛び散るからもったいない。






語呂合わせ 2



「昔はいい国1192作ろう鎌倉幕府でしたね。」

「はい、今ではいい箱1185作ろう鎌倉幕府です。」

「いつ頃から変わったのでしょうか。」

「2012年頃のようですね。」

「他にも色々と変わっていますね。

覚え直せばいいのですが、

染みついているのでそれもなかなか難しいですね。」

「でも少しばかり下ネタを入れるとすぐ覚えられると思いますよ。

人としてのさがですね。」

「例えば?」

「本能寺の変、1582、イチゴパンツ、ですか。

信長がイチゴパンツを履いている情景を思い浮かべれば……。」


築ノ宮さん、その様子を想像する。

なんだか織田信長とは趣味が合う気がした


んなばかな……。






初めての傘



結構大変だった仕事帰り、

車に乗りながら少しうとうとする築ノ宮さん。

運転手さんがいるので安心。


ふと窓の外を見ると一軒の古い家から老婆が出て来た。

手には不燃物が入ったビニール袋を持っており、

それを玄関先に置いた。

この地域では今日が不燃物を出す日なのかなと思っていると、

そのわきにふうっと小さな子どもが現れた。

頭に傘を被っている子どもだ。


「雨降小僧ですね。」


いわゆる傘の物の怪だ。

だが傘は和傘ではなく

派手な洋傘で何かのキャラクターがついている。


「現代的ですね。」


築ノ宮さんはふっと笑う。

するとそれに気が付いたのか雨降小僧が寄って来た。

頭の傘の骨は数本折れている。


「なんだよ、兄ちゃん。」


笑った声が聞こえたのだろうか、

少しばかり不機嫌そうな声だ。

だが悪さをする物の怪ではないのは築ノ宮さんには分かった。

小さくてカワイイものだ。


「すみません、傘が和傘じゃないと思って。」


雨降小僧は自分の頭に触れた。


「そりゃそうだよ、おいらはそこの傘についていたんだもん。」


小僧は家の前に置かれた不燃ごみの袋を指さした。

そこには子ども用の小さな傘が入っていた。


「長いことこの家にいたけどさ、

ついに捨てられちゃったよ。」


子どもは溜息をついた。

築ノ宮さんは袋の中の傘を見た。

色が褪せている。

マンガキャラクターがついているかなり古いものだ。


「おいらの傘をここの子が使っていたんだよ。

雨の日には一緒に出掛けたな。

長靴も仲間だったけどあいつは結構前にいなくなったよ。」


この傘は幼い子が初めて持つような大きさだ。

だがやがて子どもも大きくなる。

そうすればこの傘もお役御免だ。


「そうですか、

その子と出かけるのは楽しかったですか?」


雨降小僧はにかりと笑う。


「うん、ぶんぶん振り回されたけどさ、面白かったよ。

だから骨が折れちゃったんだ。

長靴も中に水が入ったけど笑ってた。」


その時、先ほど不燃物を出したおばあさんが出て来た。


「なにかご用かしら。」


優しそうな顔立ちの年寄りだ。

家の前に築ノ宮さんがいるので

不思議に思って出て来たのだろう。

築ノ宮さんはにっこりと笑って頭を下げた。


「失礼いたしました。

この子とおしゃべりをしていたので。」


おばあさんははっとした顔をして雨降小僧を見た。


「うちの子の傘と同じ模様……、」

「そりゃそうだよ、おいらはこの傘だし。」


彼女はしばらく不思議そうな顔をしていたが、

雨降小僧の頭にそっと触れた。


「そうなの、このマンガはうちの子が大好きだったのよ、

どうしてもこれが良いって。」


雨降小僧はふふんと得意げな顔になる。


「だからなかなか捨てられなくて……、大昔の話ね。」

「長靴はどうしたんだ?」

「うちの子が大きくなって履けなくなっちゃってね、

履ける子にあげたの。」

「そうなのか、でもおいらと仲良しだったんだぜ。」


彼女はそれを聞くと少し笑った。


「別れ別れになっちゃったの?

ごめんね、悪い事しちゃったわね。」

「まあいいよ、元気だったんなら。」


築ノ宮さんはにこにことしてそれを見ていた。

そして二人は築ノ宮さんを見た。


「兄ちゃん、話聞いてた?」

「ええ、とても良い話でした。」


それを聞いて二人は顔を合わせて微笑んだ。


「それでこれからお二人はどうしますか?」


雨降小僧はおばあさんを見た。


「ばあちゃん、これから行くところ分かるかい?」


彼女はぽかんとした顔になる。


「だよな、おいらなんとなくそんな気がしたんだ。

自分がどうなったかまだよく分かんないんだろ?

ならおいらがばあちゃんを送るよ。

ばあちゃんは今までとは違う所に行くんだぞ。」


雨降小僧は築ノ宮さんを見た。


「それはおいらの仕事だよな。」

「分かりますか?」

「うん、この人は壊れてもおいらを大事にして

きれいに拭いてくれたからな。恩返しするよ。」

「ではお願いします。」

「任せろよ。」


そう言うと雨降小僧はおばあさんの手を握った。

彼はゆっくりと進む。

早く歩けない老婆に合わせて。




「築ノ宮様、着きましたよ。」


渡辺さんの声だ。

築ノ宮さんははっとして目が覚めた。


「すみません、えーっと、」

「お疲れだったようですね、よく眠っておられました。」


転寝をしていたようだ。

そしてふっと雨降小僧を思い出す。


あれは夢だったのか、それとも……。


「雨降小僧に聖域にぜひ来てくださいねと

言うのを忘れました。」


築ノ宮さんは思わず呟く。


今頃はあのおばあさんは行くべきところに着いただろうか。

それは分からない。

だがあの可愛らしい雨降小僧は必ず連れて行くはずだ。

その道中は懐かしい昔話をするのだ。


おばあさんはきっと癒されるだろう。








あとがき



トランクスは『光は謳う』の真上から強奪したものです。

お暇でしたらそちらもぜひお読みください。

と宣伝しておいて、


家を整理しないといけないのですが、

やりたくねー、めんどくさーい、これは捨てたくなーい、と

その中で子どもに初めて買った傘があります。


もう色も褪せて小さくて古ぼけているので

人にあげる事も出来ないものです。

でも捨てられないの。本当に小さくてカワイイのよ。


幼い子の思い出があるからと言う理由もありますが、

その頃の自分の思い入れもあるからでしょう。


あの頃は若かった、体が痛いなんてなかった、

夜もよく眠れたわとなんだか切ない話。

じゃなくて毎日大変だったけど

夢とか希望とか今より沢山あったわね、と。

過ごしてきた日々の思い出でしょうか。


だから断捨離ときっぱりと判断できる人は

本当にすごいと思います。


でもなあ、誰か家の中整理してくんないかなあ。

はぁ……、掃除片付け苦手だわ。





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