第9話(サキュバス編)ご飯、ちょうだい?

 いつもの部室。


「きましたね、先輩」

「待ってましたよ」

「今日はまあサキュバス風に……とりあえずツノつけてみました」


「……もしかして先輩」

「ツノだけでがっかりしちゃいました?」

「私がえっちな衣装着ること、期待してたんですか?」


 下から顔を覗き込み、煽るように言う。


「違う? へえ? 本当ですかね?」

「まあ別にそんなの、どうでもいいですけど」

「それじゃあ今日も始めますよ、先輩?」


 挑発するような声で言って、パン! と亜矢奈が両手を叩く。





「ねえ」


 いきなり肩にもたれかかり、耳元で囁く。


「私、お腹空いちゃった」

「ご飯、ちょうだい?」

「……もう、意地悪しないで」

「私のご飯がなにかなんて、とっくに知ってるでしょ」


「ね、ご飯、食べさせて」


 首筋に何度も軽いキス。

 上に跨ってきて、身体が密着する。


「ちゃんとこっち見て」

「私をこんなに食いしん坊にしたのは貴方なんだから」

「責任とって、美味しいご飯をいっぱいくれなきゃだめ」


 両手を恋人繋ぎにされ、鼻先にキスされる。


「ねえ」


 繋いだままの手をそっとブラウスのボタンに誘導される。


「外して?」


 ねだるような声。


「ここ、外だから?」

「知ってる。でも今、誰もいないじゃん」

「ねえってば」


 ボタンを外す音が2回。


「ほら、貴方だって、いっぱい見てる」

「いいんだよ?」

「私は生きていくためにこういうことしなきゃだし」


 太ももをそっと撫でられる。


「それに私たち、恋人でしょ?」

「こういうことは俺とだけしてって言ったの、貴方なんだから、責任とって」

「今くれなきゃ、空腹で死んじゃいそう」


「お願い」

「私のこと、助けると思って?」


 ゆっくり近づいてきて、そのまま口にキスされる。


「……ね?」


 もう2回、ボタンを外す音。


「お願い」

「ご飯、ちょうだい?」

「……私のこと、好きにしていいから」


 パン!! と両手を叩く大きな音。





「……先輩」

「なんでやめちゃうんです? いいところだったのに」

「とにかくボタンを閉めろ? ……別に、外からは見えませんよ。カーテン閉まってるし」


「……先輩? 別にいいですよ」

「だって、どうせ先輩は意気地なしですし」


 拗ねたような怒ったような……そして、少し泣きそうな声。


「もういいです」


 雑にボタンを閉める音。


「もう、こんなエチュードも今日で……」

「あと1日だけ?」

「……どうしてもやりたいテーマでもあるんですか?」


「……1歳差の、演劇部の先輩後輩?」

「それ、普段の私たちじゃないですか」

「いつもの設定で、恋人同士のエチュード?」


「……分かりました」

「明日が、最後ですからね」


 念を押すように言う。


「じゃあ私、今日はもう帰ります」


 早口でそう言って、亜矢奈が部室を出ていく。

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