最年長メンバー

 次に私達が向かったのは、とあるオフィスビル。ガラス張りの窓が目立つ、立派な高層ビルだ。

 そのビルの三階にある受付で用件を言うと、私達は応接室に通される。しばらく待っていると、一人の女性が入ってきた。


「お待たせ致しました。『スノードロップ』代表取締役の西村鈴音にしむらすずねと申します」


 ダークブラウンの髪をショートカットにした女性は、そう言うと私達四人に名刺を差し出した。紺色のスーツを着ていて、いかにも仕事が出来そうだ。


 西村さんは、グリーンクローバーの元メンバーの一人で、キーボード担当だった。デビュー当時十八歳だった西村さんは、最年長としてバンドを引っ張ってきた頼れるリーダーだ。

 バンドが解散した後は、アクセサリーを製造・販売する会社を立ち上げ、今に至る。


 全員がソファに腰掛けたところで、御厨さんが早速今回の事件を知っているかと質問する。やはり西村さんは、糸村さんの死をテレビのニュースで知っていたようで、俯きながら頷いた。


「糸村さんには、本当にお世話になって……こんな事になって、残念です」


 次に御厨さんが糸村さんの抱えていたトラブルについて聞くと、西村さんは首を横に振って答えた。


「トラブルですか?……いいえ、私は何も知りません。最近は糸村さんと会っていなかったので……」

「そうですか……西村さんは、『グリーンクローバー』の再結成を望んでいると聞いたのですが……」


 西村さんの眉がピクリと動く。そう、私達が織絵さん、南さん、東山さんから話を聞いたところによると、西村さんはこの会社を部下に譲り、再度グリーンクローバーの一員として活動したいと思っているらしい。

 現に西村さんは、三人にバンドを再結成しないかとメールで呼びかけている。


「確かに私はバンドを再結成しようとしていました。糸村さんにも、織絵を説得してくれるようメールを送りました。でも、私は糸村さんを殺害していません!」


 西村さんの言葉に頷いてから、御厨さんが質問を続ける。


「分かりました。……しかし、これは全ての関係者に伺っている事ですので質問させて頂きます。昨日の午前九時頃から午後一時頃まで、西村さんはどちらにいらっしゃいましたか?」


 西村さんによると、彼女は昨日午前九時四十分頃に自宅を出て、十時頃この会社に到着。諸々の打ち合わせや会議などがあり、彼女が昼休みに入ったのは午後二時頃。その後も西村さんは仕事をし、夜七時半頃退社したらしい。


「お時間を頂き、ありがとうございます。またお話を伺う事もあるかもしれませんが、その時はよろしくお願い致します」


 御厨さんの言葉を合図に、グリーンクローバー元メンバーへの事情聴取は終わった。

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