ガールズバンド

公園の遺体

 十月も半ばに差し掛かった金曜日の夕方。警視庁捜査一課の私、小川沙知おがわさちと先輩刑事である御厨圭介みくりやけいすけは、郊外にある公園に臨場した。若い男性の遺体が発見されたとの報せを受けたからだ。


 鑑識さんが既に作業を進めている。現場を見ると、若い男性が白いワイシャツに黒いスラックスという姿で横たわっていた。彼が被害者なのだろう。

 被害者は仰向けになっていて、胸の部分が赤く染まっている。凶器は分からないが、胸を刺されたらしい。被害者は公園の奥にある花壇のさらに奥にある茂みに倒れており、散歩をしていた老人が遺体を発見したらしい。


 見知った顔の鑑識さんが、遺体の側に落ちていた黒いバッグを指さして「これ、もう写真撮ったから調べていいよー」と声を掛けてくれた。

 私がバッグを開いて中身を確認すると、そこには財布とスマホしか入っていなかった。まあ、小さめのショルダーバッグだったし、入っているのはそんなもんだろう。


 財布に入っていた免許証を確認すると、被害者の名前は糸村裕也いとむらゆうや。三十五歳。免許証の上部に貼られた写真には、黒髪を短めに整えた穏やかそうな男性の顔が写っている。


 免許証の裏を見た私は、私の後ろから免許証を覗く御厨さんに向かって話し掛けた。


「御厨さん、被害者の住所、ここからそんなに遠くないみたいですよ」

「じゃあ、現場検証が済んだら行ってみるか」


 鑑識さんや検視官の話を纏めると、死亡推定時刻は今日の九時頃から十三時頃。死因は胸を刺された事による失血死。凶器はまだ見つかっていない。


「凶器が見つかってないから、凶器から出所を探るのは無理だな。……さて、被害者の自宅に行ってみるか」


 辺りを見回しながら、御厨さんがそう言った。


       ◆ ◆ ◆


 私と御厨さんは、公園近くにあるマンションの一室を訪れた。ドアの側にあるインターフォンを押すと、「はい」という女性の声が聞こえる。一人暮らしではないらしい。

 私達が警察だと名乗ると、女性はすぐにドアを開けてくれた。


 玄関から姿を現した女性は、黒髪をショートカットにしている。白いトレーナーに青いデニムのパンツというシンプルな服装。年齢は二十代だろうか。


「あの……ここは、糸村裕也さんのお宅で宜しいですよね? あなたは……」

「……糸村の妻で、織絵おりえといいます」


 織絵さんは、私の質問に目を逸らしながら答えた。大人しくて人見知りのような印象を受ける。


「奥様でいらっしゃいますか。……大変申し上げにくいのですが、先程、糸村裕也

さんが……遺体となって発見されました」

「えっ……!?」


 織絵さんの目が、大きく見開かれた。

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