語られる真相2
翌日の昼、非番だった私は、ふと気が向いて事件のあった河川敷に来ていた。すると、遠くに一人の女性がいるのが目に入る。柿崎さんだ。昨日と同じく、スケッチブックを持っている。
「柿崎さん」
私が声を掛けると、柿崎さんは少し寂しそうな笑顔で声を漏らした。
「……刑事さん……」
「ここに座ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
私は、柿崎さんに並んでビニールシートの上に座ると、スケッチブックを覗き込んだ。
「今日は、昨日と少し違う構図なんですね」
「はい。……刑事さん、今日は仕事じゃないんですか?」
柿崎さんが、私のカジュアルなシャツやジャケットを見て聞いてくる。
「今日は休みです。柿崎さんは、今日講義を受ける予定は無いんですか?」
「……本当は午前中も講義があるんですけど、どうしても講義を受ける気分になれなくて……午後からはちゃんと受けます」
「そう……」
しばらく沈黙が流れた後、柿崎さんが口を開いた。
「……私、本当に綾音先生の事、尊敬してたんです」
「はい」
「盗作とか、そんなのどうでも良かったんです」
「はい」
「ずっと、綾音先生の側で先生の活躍を見ていたかったんです……!」
柿崎さんの声は、震えていた。私はそっと、柿崎さんの頭を撫でた。
◆ ◆ ◆
同じ頃、警視庁の近くにある公園のベンチに、堀江雅人は座っていた。缶コーヒーを飲んでいると、一人の女性が近付いてくる。
「お待たせしてすみませんねー、堀江先生」
「いえ、そんなに待っていませんから」
雅人は、笑顔で返事をした。近付いて来た女性――
「それで、今日はどういった御用ですか? 白鐘さん」
「いやー、最近、花音さんの様子はどうかなと思いましてねー。一昨日は、秀一郎さんになった姿しか目に出来ませんでしたからねー」
「ああ……花音も元気ですよ。最近は、秀一郎さんにならなくても自分の考えを沢山話してくれるようになりました」
「それは良かった。……花音さんを捜査協力者に推薦した身として、彼女の様子は気になりますからねー」
「その節はありがとうございました。……今日は、花音の近況報告を聞く為だけに呼び出したんですか?」
雅人がそう言うと、卯月は、鋭い目つきになって雅人を見つめた。
「花音さんを虐待していた
それを聞いた雅人が顔を強張らせる。
「あの男が再び虐待をするとは限りませんが、伝えておきますねー。しっかり花音さんを守ってあげて下さい」
そう言うと、卯月は立ち上がり、「ではまた」と言ってその場を後にした。
一人残された雅人は、ギュッと膝に置いた拳を握った。
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