第28話

 厚切りのトーストにメープルシロップがかかり、熱いコーヒーが一杯された。──国道沿イニ生エタ珈琲店ハ、昭和ノ喫茶ガ受ケ継ガレテイルヨウデ、店名ハかたかなト、文語ノ漢字ガ組ミ合ワサリ、文明開化ノはいからガふらんちゃいず展開デ新シク生マレ変ワッタラシク、今ガ投資対象トシテ最適ナ時期カモシレナイ、ダガスデニ、国道ニ根分ケサレタ時点デ成熟シテイルノカ、オソラク萌芽シタバカリノ爆発的ナ成長ハモウ済ンデシマッタ……、往復スル行キ帰リハソンナ視点ヲ持ッテ、暗ガリカラ明ルミヘ、日ノ暮レカラ明ケ方ヘ、煙ト日常ノ混淆ノ中デ見ツメテ、家系ノらぁぁめんヤ、産地直送ノ回転寿司ヤ、家族団欒ノ焼肉ト並ンデ──(コンナ店ダッタノカ、ナンテコトハナイ、じゃずノれこぉぉどガカカルいめぇぇじナンカナイ、めにゅぅぅモでざいんニ画一化サレタ、オ子様料理モ用意スル家族向ケノ敷居ノ低サダ、はんばぁぁがぁぁジャナクテ、食ぱんガ売リ物ノ……)腹の空いた食欲は味わう間もなく口から納められ、追いつかないコーヒーを半分ほど飲んだところで着信があった(十五分モ経ッテイナイジャン)。

 血色の悪い男は歩いて珈琲店の駐車場にやってくると、ここが本店かもしれないと教えた。しかし何の感慨も持たない者にとってそれはサンプリングに使われた元ネタを先に教えられたように意味がなく、分家と本家の違いなどまるで気にしない遠い親戚の子供の気分だった。再会は半年振りとはいえ意外な土地で対面する宵の口が気分を盛り上げ、強力な助っ人が到来したかのような歓迎の笑みに喜びは上擦って会話を昇らせた。「よく来たじゃん」その言葉だけで来たかいはあったが、実際のところたった一日の行程はそれほどの苦労を感じさせなかったものの、フラッシュバックさせる強烈な光景は四十八瀬川のうねりや三島を見下ろす峠の基調を瞬時に炙り出し、濃い紫に落ちる空との対照を色づけた。会話が一分も進むとつい三十分ほど前に赤いワンボックス車に口を開くまでの自意識が霧散して、声がやたら堅く、思うようにままならなかったが、関東でいつも存在していた自我を呼び戻すかのように和らいだ。

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