第27話

 ルートを教えてもらうだけでも他人からの親切は旅情を何倍にも膨らませるらしく、日常には得難い感謝が純粋な心で触れ合うようだった。地図で得る道のりとは比べものにならない有り難みは、かすかな切迫が背後していたからこそ、肝心な最終地点の重要性に付随した。信じて走っていると、言われた通りフランチャイズ展開している名古屋発祥の珈琲店が見えてきた。右手でハンドルを握りながら、左ポケットに入っている携帯電話を取り出して開いた。愛知万博の閉園時間は知らなかったが、携帯電話の時刻はおそらくとして、まだ間に合う頃合いだと伝えているようだった。

 珈琲店の駐車場にビッグスクーターを停めて考えた(ソウイエバ腹ガ減ッタ、ココマデ来タラ急グ事モナイシ、ごぉぉる前ニぶれいくデモ取ロウカナ)。──店ヲ出ルト、モウ閉園シタラシイ人人ノ流レガ押シ寄セテキタ──(ヤメヨウ、善ハ急ゲダ、マダ到着シテイナイ、マズ電話ダ)男は万博会場であろう巨大な建物に目を向けて発信履歴から番号を探した。

 「ヨボセヨ、おお、おまえか……、ああっ、なにっ、もう着いたわけっ、マジかよぉ、明日か明後日に着くって言ってたじゃん……、早く知らせろよ……、ヨボセヨか、もしもしだよ、もしもし、韓国語でもしもしって言うんだよ……、はあっ、知らねぇぇじゃねぇぇよ、働いている韓国人達が言ってんだよ、覚えておけ……、あんっ、話せねぇぇよ、全然、日本語だって、二か国語話せる奴がいるんだよ、それより今どこ……、ああ……、ちょうどいい、今そこから近いところにいるんだよ……、問題ない、よゆうよゆう、あっ、待て、十五分くらい時間かかるからさぁぁ、ちょっとだけ待っててよ……、ああもちろん、案内がてら、職場を紹介するからさぁ……、あと一時間くらいで閉館だから、そうしたら一緒に帰ろうぜ、メットあるだろ……、ああ、だいじょうぶ、今日からいけるし、明日から働けるぜ……、ほら、電話でも話した、東京から来ている他の四人もいるし……、ああ、そいつらは別の部屋に住んでいるから……、まあ詳しい事はあとで話そうぜ、ちょっと待ってろよ……、ああオッケーオッケー、そうしててよ、その方が都合がいいから、じゃあ、外出たら電話すっから、じゃあな」電話を切って、珈琲店に入った。

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