第21話
煙草をやめたのは去年の夏だった。それまでは部屋の灰皿に針千本が膨らむだらしない臭いだった。ある日に計算された。一日二箱を一年に換算すると、東南アジアの国国を二ヶ月は旅行できるらしい。さっそく禁煙された。依存性など噂されるほど問題にならず、やめられない人間の気持ちよりは意志の弱さを知った。ビッグスクーターのローン返済にあてることは考えられなかったが、結局そこを補填することになった。
(コウモ暗クナッテシマエバ、景色ヲ楽シムコトナンカデキナイ、モウ豊田ニ入ッタカラ、肝心ナ分岐点ヲ逃サナイヨウニシナイト)──四十八瀬川カラ枝ヲ伸バシタ桃ト黄ノ色色ノ花花ハ垂レタ柳ノ青ミト交差シタ──影絵のシルエットが道路脇から夕陽色を背景に樹木を象っていた。
大麻の依存性は煙草よりも強かった──天秤ハ黒電話ノ受話器ノヨウニ平衡ヲ保ッテイタガ、片方ハウルサク鳴ッテイタ、食欲ト音楽ヲ自慰行為ニ混ゼタ快楽ノべるデ──。ところが計算を念頭に生活が始められると濁る頭脳を避けて欲する気持ちは起こらなかった。(意識シテ止メル事ハデキル、ソノ為ニハマズ目的ヲ定メルコトダ、成果ノ理由ガナイト力ハ湧イテコナイ)けれど意識は繋がっていた。簡単に切れる物と途切れない物が経験という重りでぶらさがっていた。
小学生の時には夢がなく、成るべきは現実的な公務員だと父の姿を母が見本に喋っていた。それから魚類と両生類が飼育されて、水族館などの生物に関わる仕事を憧れた。少年野球も部活のバスケットボールもプロになることなど考えられなかった。ヒップホップもダンスを職業に見ることはなかった。サーフィンも。女性との付き合いはある時は飾りであって、肉体を知れば、捌け口だった。そこで鼠が友人の顔を借りて誘いをかければ……、初めて社会へ目は向けられる。
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