第20話
(オッ、看板ニ出タカ……、出タゾ、ドウダ、オッ、丁度イイ、赤ダ、スグ見落トスカラ、ジックリ確認デキル……、ココジャナク、次ヲ曲ガレバイインダナ……)──高速運転ニ頭部ト視線ハ固メラレ、緑ノ看板ヲ見過ゴシタ──(集中ヲ切ラサズニイカナイト、スグ間違エルカラ)信号待ちの間にかけていた眼鏡を取り外し、息を吹きかけ、シャツの裾で拭いた。(思ッタヨリモズット早イ、周リノ流レモ速イカラカ、コノ調子ナラスグ豊田ニ着キソウダ)──さぁぁふぼぉぉどヲはいえぇぇすノ後部座席ニ積ミ込ンダ──信号の色が変わった。太陽はいつの間に雲と大地に隠れて、車のライトが光に浮き上がっていた。
加入していた衛星放送は音楽番組ばかりテレビに映して、大麻の効能を引き出しては大学生活から遠ざける大きな原因になっていた。ミュージックビデオは新譜を先取りして流し、ここからの情報が仲間内に伝播して、“あいつは物知りだ”という称号を獲得したようだった。昔みたいにダンスはしない、ラップは始めない、ターンテーブルを持っているがDJではない、しかし最強のリスナーというパーティーチェッカー気分でいた。その役割の情報源だった衛星放送はネットワークビジネスへの入信からチャンネルが切り替えられ、年を明けてからは日経の番組が昼夜流れ続け、絶え間ない株式情報が部屋に渦巻いていた。そのチャンネルに世界各国の最先端技術が集結する愛知万博にスポットを当てた特集があった。大麻を削いだ健常な心身はその情報に憧れを持ち、有力な投資情報を実地で得られると想像した。
目も鼻も痒くなる部屋の埃から想念が燻された──ぽてとちっぷすノ袋ノヨウニぱんぱんニ詰マッタ大麻ガ手渡サレル、熱気ト湿気ニ茹ダラズニ体力ハ欲シガル、緑ニ輝キヲ放ツ新鮮ナ芳香ニ黒ズンダ枯レ枝ハ混在セズ、牛丼ヲ食ベル値段程度ダ──。モスグリーンのカーテンから透ける秋の陽射しが部屋を満たしていた。
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