第19話

 名古屋を中心に目的地を見つけると、意外に離れていることを知った。現在地は目測通り愛知の手前だが、それから名古屋までに豊橋や岡崎を通るらしく、地図上のセンチメートルは予想もしない長さだった。三分の二以上道程は終了したと思いきや、単なる線上の距離ではなく、はっきりしない道のりが多くの時間を食わせる予感をさせた。当初のルートは、とりあえず名古屋へ向かい、そこから愛知万博を目指せば着くだろう、という大まかな道順だったが、それではずいぶんと遠回りになることは確認できた。岡崎を越えたあたりで豊田へ北上しなければならない。夕方前の疲れが急に頭を襲い、一瞬だけ面倒くさいという言葉が覆い被さってくると、思考力が低下してやたら目をこすった。ぼやけた視界を回復させるべく思い切り目を瞑り、全神経で溜息をつくと、早早と考える力が戻ってきた。

 このムック本を購入すれば頼りになる道標として安心が手に入ると思い、手に持ってレジへ二三歩すると、急に無駄な気がした。到着後も利用できる情報誌として愛知万博の細かい理解に役立つと直感したが、同時に必要ないという反作用も起きた。たかだか道を知るだけの購入に千円を払うのはもったいないと感じたので、ページ内容を読みとらない程度にめくると、順路となる国道をメモすれば良いと思いついた。ところが書く道具を持っていないと気がつき、もはや使わないであろう寝袋なんかよりも、ボールペンの一本を用意するべきだったと後悔した。しかしすぐ頭は閃き、ムック本を買う十分の一程度の金だと計算すれば、文具コーナーで一番安い品物を手にしてもずいぶんと安上がりだと判断した気分は、エナジードリンクも一緒に購入した。これでも半額に満たないという得意気な確信に浸りながら無料の求人冊子を一部取り、買ったばかりのボールペンを荒荒しくビニール袋から突き破り、道路を目で辿った。

 一つの数字だけでは目的地に行き着かなかった。線は切れることなく一本で繋がっていても、いくつか屈折箇所があるだけでなく、同じ道が途中から番号を変えていた。俯瞰してまず主軸になるのは248号線らしく、1号線から分かれたその道は、豊田に入って一度姿を消すようだった。直線すると別の番号となっていて、ルートを探すと、鳥居のような交差点で左折して右折すると248号線は保たれ、道なりに進んで行けば155号線に姿を変えることになっている。道路は将棋の駒のようだ。目指す万博は緑色に染まるその道の途中の西にあり、空飛んで横切るシュミレーションゲームにはいかないので、そのまま直進して6号線へ左折するのが良策だと思われた。導線は頭に予行されたので、求人冊子の背表紙に国道の番号だけでなく、単純な線で地図を模倣した。

 メモした先端に近づいたらそのあたりの誰かに場所を尋ねれば良い。そのような解決がなされると新たなステージに向かう気概が湧き立ち、本日中に必ず到達しようと明確な目標が設定された。そこでエナジードリンクを一気に飲み干し、のろのろしていたら時間を無駄にしてしまうと逸ったので、ブルーとシルバーがメタリックに艶光りする空き缶をゴミ箱に放り、もはや数分前の浜名湖など思い出しもせずに国道の青看板が示す数字に意識は向けられ、冷え切らないエンジンを再始動させた。

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