第16話
一日というのは午前に煌めきがあるのだろう。太陽が頂点に至れば、後は下がっていくばかりだ。箱根を降りると幻想だったかのように平凡な国道を走っていて、思考は止んでいた。まさしくもう峠は越えてしまったように味気ない街道が平坦に続き、コンビニに寄ると変わらない現実感が入り口のチャイムとおでんの混じった独特の匂いで知らされた。高揚感と旅情はドライブという速度に醸されていたのだと気づかされた。国道から一本裏に入った人の気配のない小さな公園にビッグスクーターを停めて、ブランコのそばのベンチでマヨネーズとウィンナーの菓子パンを食べると、立脚地の不確定な虚無感が物陰から覗いていた。もう終わってしまったという予感がさっと過ぎると、寝袋など必要なく、夜には目的地に着くだろうという算式が時計と走行距離から測られた。寝袋が急に大げさな代物に感じられ、食べきれない菓子を学校遠足に持って行くのとは比較にならない無様に思われた。しかしまだ天竜川を超えていなければ、浜名湖も見ていない。まだまだ箱根のような正気を奪ってくれる自然のポイントもあるかもしれない。けれど午後の倦怠が陽の低下に伴って意識を濁らせることは免れなかった。日常の代表ともいえる飽きが目覚めたことで、過ごした時間に比例して心身は浸食されていた。
富士山は驚くべき魁偉を見せてくれたが、あくまで景色だけの視覚だった。冠雪も残す頂上付近に山裾はなだらかな曲線を流し、単純な走行で斜面を登って行ったら気持ち良いだろうと思われたが、しょせん向かわない場所には現実的な興味は湧かなかった。
当初の考えであった観光しながら旅気分で移動するなどもはや頭に浮かばなかった。そんな面倒な行動は無駄にしか感じられず、どこを観光するか考えるのも億劫で、調べる行為などどんなに時間が余っていてもする気になれなかった。バイクを運転することだけが唯一の目当てになっていた。ところがそのドライブさえも、無感動な国道が長長と続き、大学へ続く慣れた道を運転するように車の脇を無遠慮にすり抜け、慌ただしい自身との競い合いになっていた。
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