第9話
午前の上昇気流はビッグスクーターを休憩させることなど考えさせず、出発してからそれなりの時間を経過していたが疲れよりも漲る意気が前を進ませ、長い道程と思われた小田原にもう着いてしまったというあっけない気分がすでに、今日のそれまでを過去にさせ始めていた。
──大学ハ遊ブ場所ダト誰ニ教エラレタノカ、就職カラ逃レル為ノ四年間ト決メタノカ……、入学シテシマエバコッチノモノダ、受験勉強カラ解放サレタ欲ハ、好キ放題ニ海ヘ向カウ──。
小田原は東海という言葉を知る前から、海に沿った遠いところへ向かう出発地だった。その行き先は、湯河原、熱海、そして清水だった。
──モハヤ電車ニ乗ッテ海ヘ向カウコトナドナイ、学校ヘ行カズニ働ク仲間ハしぃぃとヲ倒シテ前後ニ二人乗リスルせだんナド使ワナイ、仕事ガデキルト誇示スルヨウナ箱型ノ後部ニぼぉぉどヲ積ミ、友人ヲ数人乗セテどらいぶノ楽シサヲ味ワワセテクレル、モハヤ高校生デモ、大学生デモナイ──。
──一人デ車ヲ運転シテ鵠沼ニ入ッタ、小サナ波ハ遊ブコトモデキナイ、タダ海ニ浸カルダケ、寒イ冬ニ──。
──待チ合ワセニ誰モ来ナカッタカラ、一人電車トばすニ乗ッテ津久井湖ヘぶらっくばすヲ釣リニ行ッタ……、開放感ヨリモ虚無感ダッタ──。
──らぁぁめん屋デモ焼肉屋デモ、後後一人デ行ク所ハ、イツモ誰カト一緒ニ訪レテ、枠ヲ広ゲテモラッタ道ヤ場所ダッタ──。
道程の最中に気になった街に寄り、観光するつもりもあった。だからその日に辿り着くとは考えずに寝袋を用意していた。東海への大埠頭らしい小田原で成人した目線の街歩きでもすることを考えていたか。ところがそんな気配さえなく道路を曲がり、箱根を示す看板に向かってハンドルを握り続けた。
──二輪車ヨリモ自動車ガ自立心ヲ持タセタカ、深夜ノらぁぁめん屋巡リハイツモ車ダッタ、大学モ半バヲ過ギルトばいくニ乗ラナクナッタ、理由ハ明確ダ、外気温ト音楽ノ有無ダ──。
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