第8話
──きゃんぱす周辺ヲ一日中旋回シテカラ、ばいくハ夕暮レニ向カウ帰路ヘ走リヲ定メタ──。
糸のごとく縒った流れは東名高速道路の大きな橋をくぐると、山間を抜けて平野が広がった。小田原に着く前の名だたる配下風情を持った松田だった。青看板に小田原の名前が載っており、四十八瀬川の急速な叙情歌に高ぶった心は、黄色の薄膜から青空の真ん中に降りたような志が視界を広げさせた。馬に乗って早駆けした侍の気分で新天地を前にした。けれどもまだ序盤だと気を引き締め、小田急線を頼れば箱根に届くという算段から、矢印に向かって酒匂川を南下した。
──相模川ハきゃんぷヤばぁぁべきゅぅぅデ何度モ上下シタ、ソノ先ヤ後ノ中津川ヤ馬入川モ遊ビノぽいんとダッタ……、多摩川ハ常ニ拠リ所ノナイ浮キ沈ミダッタ、他ニ繋ガル川ヲ知ラナイ、都ト県ノ狭間デ怠ケル脈ダッタ──。
二級河川の看板を見かけると、酒の匂う漢字に波が大きく巻かれて砂に打ち付ける強さを感じた。サーフポイントの網羅された冊子に熟読した印象からは、台風の時に姿を現すハイレベルの場所として記憶されていた。川の流れで決まるサンドバーに盛り上がった波は、地形とうねりに風向きの三種が共同して作り上げるタイミングの賜だと知っていたが、とても立ち向かえる腕前ではなかったので、憧れの場所として固定されていた。
──四年間ニ取得シタ累計単位ハ四分ノ一程度ダ、残リヲ一年デ取リ返ソウトシタカラ、制度ノ変更ニ食ッテカカッタ……、ソモソモ積ミ重ネガ悪カッタ、女ニ落チ込ンダ最終年ヨリモ、ソレマデノ三年ガ足リナカッタ……、ソノ前半コソ、海ノ誘惑ダッタ──。
小さい頃に小田原城を訪れたことはあったようだが、景色としての記憶はすでに消えていた。それよりも小田急線の駅名が並び、大きな節の小田原がその続きの駅のホームを連結させていて、クリーム色の車両からオレンジだったかグリーンだったか、電車を代表する旧国鉄の線路に切り替える地点として一息入れられる場所だった。そこにたどり着くまでの約一時間は子供の感覚では半日に等しく、とても長い距離だった。
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