第4話

 ──朝方ヲ駆ケル羽虫ノ群ハ異境ノ都心ヲ青看板ニ頼ッテ向カイ、一本道ヲ走ッテキタ流レハ迷イナガラモ曲ガリ、田舎風情ハ日本橋ナドノ地名ニ胸ヲ踊ラセル、電車デ来ル他人任セデハナイ、自力ノばいくデヤッテクル下道ノ足固メハ、遠イ憧レヲ定規デ測ルヨウニ開拓シテ、二度ト忘レルコトノナイ世界ノ位置ヲ近イモノニサセル、国会議事堂ヤ皇居ノ堀ナド、てれびデ知ル所ハ本当ニ、計画ノナイ移動デ九段下ニ到着スル──。

 山を意識して生活することはなかったわりに、それらが左右に近づいてくると、勾配に入り組んだ自宅近辺から目にしていた丹沢山塊が景色にいたと思い出され、憧憬が大地の盛り上がりに旅情を置いていたことに気づかされる心臓の高鳴りが速度に重なった。

 ──集団ハモハヤ都心ヘ旅シナイ、夏休ミノ晩ダケニ発生シタ一過ノウロツキダ、ソレヨリきゃんぷヘ、友人ノ父親ニ乗セラレテ行ッタ山梨ノ遠イ川ヘ、手ニ入レタ足ヲ回転サセテ──。

 ──埠頭目指シテすろっとるハ全開サレタ、走リニ慣レナイびぎなぁぁハV型ノ真似ヲシテえんじんヲ下手ニ絞リ出サセル、鋼鉄トハイエ寿命ヲ持ッタ心臓ニぱれっとないふデ切リ刻ムヨウニ、唸リノ塊ニ寸断ガ入リ、りずむヲ撃テナイ音痴ガ騒音ノ中デ甲高クましんがんスル──。

 クラッチのないビッグスクーターは安定した運転を保っている。それでも速度は六十キロを常に超え、時折周囲よりも速く百キロ近くで先へ向かう。冬よりも和らいだ青空がかすかに濁るようでも、陽光は黄色を増しており、緑が点綴された山肌が鮮やかに感じられた。

 ──初夏ノ陽気ハ出発前カラ煙ヲアゲル、大切ナノハ瞬間ダト、天気ノ良サニ釣ラレテ今日モ大学ヲ通リ過ギル、登戸デ多摩川ニ流サレル、生田緑地モきゃんぱすヘノ道ヲ妨ゲル──。

 秦野の青看板は小田急線が景色を下地にしている。子供には新宿よりも遠い小田原は、伊勢原辺りの広さを過ぎてから休みの気分が車窓へと貼り付かせる。

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