第3話
長い下り道を慣性に任せて進んでいく。50CCならエンジンがパンクする速度だろう。同じスクーターでも大きいこれは、軽トラックよりも快調に自動車と車並を揃える。トラックの風にもびくともしない。
──別ノ夜ノ集団ハ易易ト多摩川ヲ越エタ、台数モ二倍ニナレバ、排気量モ五倍ニナッテイル、V型えんじんヲ持タナイあめりかんばいくハ、すくぅぅたぁぁノ集合ノ中デ唯一ぎあヲ持チ、軽ク安ッポイまふらぁぁ音カラ目立ッテ、重ミアル太イ排気音ヲ細長イ筒カラ発シテイル……、坂ヲ上ガリ、渋谷ヲ初メテ越エタ──。
狭い生活の領域の端を区分している二つの川の一つ、東の相模川を渡った。河川敷は自然な植物が野放図に繁茂している。
──多摩川沿イガ学校ヲサボルどらいぶるぅぅとダッタ──。
──夏ノ陽光ニ川ガ溺レテ水飛沫ヲアゲテイル、演技デハナイ、本当ニ苦シンデイル一人ヲ周リノ裸ガ茶化シテ笑ッテイル──。
国道はすでに厚木を通っている。相模原よりも親しみのない神奈川の代表地点の一つは、一度として遊びの目的地に選ばれず、小田原までの通過点でしかない。
──逃避行ヨリモ、夏虫ノ無軌道ナ生命ノザワメキハ、一人立ツ映画ノ思イツキガ死体ヲ探サセタヨウニ、二十四時間続クてれび番組ノあいどるヲ求メテ、幽霊ノ意見ノゴトク、誰ガ発シタカワカラナイ言葉ニ乗ッテ移動シタ──。
前夜からの鼓動は、荷造りや出発前の目覚めだけでなく、あらゆる場面で胸を打ってきたが、相模川を渡るといよいよ本格的な旅の実感が現実として感じられ、後戻りを考えなかったとはいえ、深層にある心理はもはや帰り道がないことを自覚した。
──進ンダ分ダケ戻ル事ニナル、ドレホド加熱シテ目ノ前ニ奪ワレ、無我夢中ニ距離ヲ稼イデモ、遊ンダ分ダケ疲レハヤッテキテ、帰ル道ガ億劫ニナル、酒ナドイラナイ未成年ノ陶酔ハ気持チ良ク、ソノ後ハ、授業ヲサボルヨウナ取リ返シニ苦役スルコトニナル──。
──一人運転スル自動車ハ昼ノ多摩川沿イデ、煙ト音楽ニすもぉぉくサレテイル、向カウ先ニ戸惑イナガラ──。
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