第2話
この時間帯はサーフィンへ行く時も出発する。明け方の白み出す大気は目覚めの感覚が鋭敏に空気を嗅ぎ分け、海に入る喜びを波情報から想像して、一人なら音楽と共に瞑想するように寡黙に、誰かと一緒なら口数は少なくぽつりぽつり世間話を交わす。学校へ行く時間よりもはるかに早く、寝不足に掴まされる重さはない。ところが特別な門出の今朝は、習慣にない目的地へ向けて不安はかすむことなく、幕開けの新天地がわからない距離と時間で迎えてくれる。寝袋はシートの下に忍ばせてある。
──藤沢街道ト世田谷通リハ少シ似テイル、常ニ二車線ガ血流ヲ滞留サセヨウトスル、待ッテイル間ニ動脈瘤ガ我慢デキズニ破裂シソウダ……、車ナラ遅イ、ばいくナラ早イ、ケレド冬ハ寒ク、運転ニ神経モ使ウ、音楽ヲ聴イテ快調ニ飛バスコトハデキナイ──。
巨大な複合交差点を右折して246号線に入った。16号線のイメージがグリーンならば、この東西を繋ぐ国道はイエローだった。八王子と横浜を結ぶ子供の頃から親しんだ道よりも、小さなスクーターを手に入れて走らせた高速のような道路は青春に覚えて、海にも都内にも届かせる通りは趣味が重点となった生活の目的地を繋いでいた。それがどうして黄色なのかはまったくわからなかった。
──夏ノ夜ヲ走ラセルすくぅぅたぁぁ集団ハ、初メテ境界ヲ飛ビ出ス、おれんじノ街灯ガぱれぇぇどノヨウニ等間隔デ続キ、じぇっとこぉぉすたぁぁノヨウナ錐揉ミガ道路ヲネジ込ンデイル、自動車ハ深夜ノガランドウニ狂気ヲ得テ100きろ近イ速度デ追イ抜イテイク、50CCノ蠅ハ吹キ飛バサレソウニナリナガラ、連ナル仲間トみらぁぁデ会話スル──。
神奈川県が色濃くなる隣の車線にはトラックが多かった。左斜めに入る湘南への道に想いをよそ見しながら、海老名へ向かって信号を真っ直ぐ進んだ。
──一台ガ故障シタノハ溝ノ口ダッタ、こんびにデ数時間立チ読ミシテ、朝方迎エニヤッテ来タ……、多摩川ハ越エラレナカッタ──。
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