第6話  襲撃と賭けの行方は?

「来なさい、シャーロット。私から離れられない事は、そなたが一番分かっているはず」


 狂気を孕んだホロギスは、正気とは思えない。

 ギルフォードは、シャーロットを背中に隠す。だが、シャーロットは贖えないのだと首を振った。 


「あんな人でも、昔は父の親友でした。今は権力にしがみついたただの魔法使いですが」


 淋しげな声。そこに、騎士団をつれて駆けつけたセオの場違いなほど明るい声が響く。


「シャーロット嬢、行かなくていいよ」 

   

 そう。王族のセオの方がホロギスより上なのだ。それが、更にホロギスを追い詰める。


「くそ!私の命令は、王帝の命令ですぞ!従わない者は、反逆者も然り!」


 再び生き物のようにツルが渦を巻き、ギルフォードやセオに襲いかかる。やはりこれは、ホロギスの魔法。魔道士長の名は伊達ではない。


 しかしセオは冷静だった。


「もう、めんどくさいなぁ。許可するからさ、ギルフォードやっちゃってよ」


「御意! 言われなくても!」


 セオの命令でギルフォードが聖剣を抜いた。瞬間、当たりは蒼白い光で包まれる。


 振り下ろされた聖剣は、届くはずがない距離にいたホロギスを、遠く夜の彼方に吹き飛ばした。


「まあ、彼も魔道士長の名を語るくらいだから、あの程度じゃ死なないでしょ」


 しれっと、笑うセオはギルフォードとシャーロットを見て嬉しそうに笑った。


「なんだか、邪魔してごめんねぇ。僕達は寝るからさ、後はどうぞごゆっくり〜」


 まるで、二人が何を話ていたのか知っているようなセオは、ヒラヒラと手を振って部屋から出ていく。


「キミが今夜、部屋に戻って来なくても僕は気にしないからね」


 セオの言葉に、賭けを始めた騎士達を諌める気は無いらしい。


「だいたい、賭けにならないでしょ」


 フフとほくそ笑むと、二人なら最強だよとステップでも踏むような足取りで出て行った。


 ギルフォードは、嵐が去ったような部屋でシャーロットの肩を抱き締めた。実は、セオ達が部屋から出て行く前から。


「…ケガはありませんか?」


 腕の中で、小さく頷く彼女が愛おしい。しかし、これだけは言っておかなくてはと身体を離して覗き込む。


「俺は、帝国を守る英雄でいたいわけじゃない。俺とあなたは似た境遇。だから…その、殿下より、俺はあなたの心に近づけるはずです」


「もしかして、殿下に嫉妬してます?」


 悔しいがそうらしい。もう、彼女の意思なんて関係ない。ギルフォード自身が、シャーロットの婚約者でいたいのだ。


「俺は、絶対にあなたを守る。悲しい思いも、辛い事もさせません。だから俺を、あなたの夫にして下さい」


 傲慢だと思う反面、ギルフォードには自信があった。しかし、彼女にはどう思うのか。


 幼く見える年上の婚約者。オレンジ色の瞳にはギルフォードだけが映っている。


 朝焼けと同じ色。

 そこに希望を滲ませ、ゆっくりと頷いた彼女を思わず抱き上げれば、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出した。


 慌てたギルフォードに、シャーロットは花が咲き誇ったようふわりと笑う。


 ぽかんとしたギルフォードの唇を、柔らかな唇が塞いだ。キスとは言えないほどのほんの一瞬。


 その誓いは、彼女自身が明るい未来に一歩踏み出した証。


 今度はギルフォードから顔を近づける。


 まだまだ先は長い。従属魔法も簡単には破れないだろう。それでも…。


(ゆっくり行こう。その間、孤独だったあなたを溺れるほど溺愛しよう。警戒心の強いあなたが俺の腕で眠る頃には、どんな顔が見れるかな)




完結です! ありがとうございました!

応援、コメントいただければ励みになります。

よろしくお願いします。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

従属魔法をかけられたはずの魔女が、溺愛される理由 〜帝国最強の勇者は囚われの乙女を手懐けたい 高峠美那 @98seimei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ