「仮説を立ててみたんだが」

「仮説を立ててみたんだが」

 タメダとわたししかいない時にタメダがわたしに向かって言ってきたことだ。

 それは己の考えを纏めたいようにも見えたし、単純に一番近しいわたしから見て意見を聞きたいという風にも見えた。


「ばあさん。一番の特徴はあの厄介な収集癖だよな。それから極端に人を恐れる」

「よりも侵入者を恐れてるって感じする」

 あの収集癖も収集の他に何か目的があるんじゃないかって思えるんだけど。

 バリケードもそうだけど……。

「俺もそう思う。すりこぎ棒持って殴ってくるのも如何にもだ。玄関内にバット立てかけて不審者が入ってきたらすぐ撃退できるようにしている家なんか見たことあるが」

「そんな漫画みたいな家、本当にあるの?」

「あるんだな。意外と」

 殴られたんだろうな。

「あいの母親の経済的逼迫状況とあのばあさんの行動を照らし合わせてなんとなく頭に浮かんできたことなんだが」

「いいよ。言って」

「借金取りを恐れているんじゃないかって」

 借金取り?

 ミナミの帝王みたいな?

「オメー何歳だよ」

「オメーって言うなっつったろ天パ」

「天パじゃねえよ」

「じゃあ偽物だな」

「その言い方もなんだかな。あいはそういう風にしてる方がなんかいいな」

「でもそんな乱暴な借金取りなんて来たことないよ?」

「ああ。借金があるようには見えなかった。支払いが滞っていただけで、あんな分相応な車売っちまえばいいし、この家だって娘と二人で住むにはでかすぎる。売ってそれ相応の場所に住めば、多少手狭にはなるだろうがだいぶ余裕はできるだろう」

「それが収集癖とどんな関係があるの?」

「わかんないか。手放せなかったんじゃないかって」

「手放せない」

「家を。車を。旦那は手放しちまったみたいだけど、一度喪失を味わったからこそ、そんな気持ちが強くなるっつーのはよくある」

「そうなのか」

「そうなんだ。喪失にプラスして懐が寒くなってくると、視野が狭くなってくるんだな。他にいくらでも方法があるのに、発想が浮かばなくなる。手放すことはそいつの中でも絶対にしちゃいけない部類に入っちまう。他に何かないかと探すのに、視野が狭い状態なのに、それなのに視界に、脳内にいつまでもいる、そんな状態がずっと続くと」

「と?」

「ありもしない妄想が生まれる余地が出る」

「それが借金取りか」

 言ってて、余裕がないのに、余地が生まれるっていうのも変な話だなって思った。

「ああ。粗大ゴミの収集もバリケード以外に。ほら」

「……売る?」

「そう。金になる。二束三文だろうが、そこまで考えられているとは思えない」

「なるほどなぁ」

 なんか納得。

 すんなりとはいかないけど、行動に説明が付いたから。

 実はおばあちゃんだけ未来人で、とか、いろいろ考えてたけど、今の現実・現状に沿った行動の上におばあちゃんのあの奇行があるって言われた方がそりゃあ納得はできるよねっていう。

 タメダは喋ってる。

「守りに入っちまうんだな。それが自分を追い詰めることにも繋がる。その上で娘には気丈に振る舞う。自分に嘘を付いていることになるから、余計に精神にガタが来る」

「ガタ」

「もうガッタガタだ」

「いいよ。結論は?」

「味の似通った料理のことなんかもあるし……、俺はばあさんがあいのお母さんなんじゃないのかってな。あいは消えたっつってたけど、それはちがくて、ふつーに考えれば、あの中の誰かがあいの本当のお母さんなんじゃないのか?」


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母、分裂する。 ミズノトアミ @yumies

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