「お風呂。一緒に入って」

「お風呂。一緒に入って」


 あれから。

 お風呂が誰かといっしょじゃないと入れなくなった。原因はわからない振りしても仕方ないので、言っちゃうと、ってか認めちゃうと、ひとりでお風呂に入っているときにごしごし体を洗っていると、誰かに撮られていやしないかと心配になってしまうのだ。


 体が震えてしまう。


 体中泡だらけでびっしゃびしゃのまんまリビングに現れたわたしを見て、我先にとお母さん集団が一斉に動く。

「そんなにいなくていい」

「ばあさん。コミ」

「はいはい」「ん」

 同時に返事する二人。リビングですっぽんぽんになろうとするコミちゃんの背を軽く押し脱衣所に連れていくおばあちゃん。

 わたしがぴちゃぴちゃ雫を垂らしたまま黙ってそれを見送り、安心したところでわたしも脱衣所に入る。

 既に二人はお風呂に入るところで、流石にこの狭い空間に大人が二人も入れば狭い。

 一人は子供だけど。

「どうにかしないとねえ」

 おばあちゃんがどうしましょうって溜息を吐いた。見ているのは錆びついたトタンに覆われている窓で、これには理由がある。


 赤ちゃんお母さんが窓ガラス割ってしまって一旦は段ボールで塞いでいたんだけど、場所が場所だけに湿気でべしゃべしゃになって落ちてきてしまうのだ。ならばとテープで全面覆ってみたが、さほど効果はなく。

 だから、トタン。トタン屋根。それっぽい平たいやつがそれしかなかった。波打ったもので平面塞ぐのは正直無理があった。隙間いっぱい。ないだろうけど、そこからわたしのぱいぱい撮られたらって一度思ってしまうと、もうムリなのだ。どうしようもない。


 わたしは自分が弱っちくなってしまったことへの落胆を誤魔化すようにして、コミちゃんとおばあちゃんに聞く。

「コミちゃんは6歳なのに、子供なのに、おまたにお毛々生えているのどう思ってるの」

「子供じゃないよ」

「?」

「ふつう」

 子供じゃないよ。これがふつう。いったいどういう意味だろう?

 よくわかんない。いーや。次おばあちゃん。

「おばあちゃんは92でおばあちゃんなのに、肌にハリがあって、ツヤがあるね」

「そうかしら」

 そうだろ。

「髪もふさふさ」

「女の人の髪はいつまでもふさふさなものよ」

 そうかな。

 そこまでおばあちゃんなら、そんなことないと思うんだけど。わたしが二人に言いたいのは、本来そうであるはずなのに、二人は違うよね? そこんとこ二人はどう認識しているの? って話なんだけど、伝っているかな?

 なんとなく。

 コミちゃんは本当にそのまんま感じたこと思ったこと喋っている感じする。逆におばあちゃんはなんか誤魔化されている感じする。


 おばあちゃんは頭を洗っている。

 湯船にはコミちゃんがいて、わたしに背中を向けて体を預けている。……苦しいんだけど。逆じゃない? これ?

 でっかい大人な背中。大きなオケツ。苦しいんだけど、押し潰されている感覚はどこか心地よくって、わたしは小さな腕をコミちゃんに回して、自分の体を、ちいぱいを、おまたを、コミちゃんに押し付けるようにする。

「……(お母さん)」

「……」

 聞こえてなかったろう。

 ぎゅっとやったまんま、ほっぺた背中で潰してぐえっとした状態で、おばあちゃんに向く。

 おばあちゃんが湯船から洗面器使ってお湯を汲み取る。バシャッと洗い流している姿を見ながらわたしは呟く。


 伝家の宝刀使おう。

「ほんとのこと話してくれなきゃ絶好するからね。おばあちゃん。何者?」

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