独壇場、であったと思う。
独壇場、であったと思う。
そう表現して差し支えないほどに、わたしたち家族(?)は、場を支配していた。双子以上に全く同じ人間(しかも柄悪い)が、四人同時に存在しているのは理解が及ばなかっただろう。ていうかわたしも理解及んでないから、向こうのご家族方はもっとだったであろう。
「えっと、あの、え、へと、お母さん……?」
という、場を代表した由笠先生のセリフを受け、赤ちゃんお母さんが「ママー!」ってわたしを指差し、コミちゃんが無言を貫き、おばあちゃんはオロオロし、お姉さんが「ケッ! クソセンコーが!」と毒づいた。
流れてきた視線に、わたしは一言
「朝起きたら増えてました」
と言った。
付け加えて、
「本物のお母さんはどっか行きました」
と言った。
お母さんをよく知る由笠先生は卒倒した。「あぁ!?」と誰かが言うも、運ばれる気配はなく、混乱し、どう動いていいか分からない向こう方。
ちなみに向こう、とは、
橘川家
白河家
凪家
魚住家
田中家
だ。
失明四家+一だ。
「ふ、ふざけないで頂きたい!」となんとか声を絞り出したのは、たぶん竜也のお父さんで、わたしは竜也はいくじなしだけどお父さんは勇気あるっぽい人だなって思った。横でこじんまりして居心地悪そうにしているお母さんに似たんだろうかって思ってた。
「そいつの言ってることはマジだ」
「あなたは?」
じろりという視線。胡散臭い者を見る目(まじでタメダの格好は胡散臭いから仕方ない)。
タメダはつかつかと竜也のお父さんに近づいてって、たじろいでいるお父さんに名刺を無理やりに渡した。
「NPO法人の代表をしている溜田正嗣ってもんだ」
「PRP――Park Revival Plan――……って、あぁ! え、あそこの代表さん?」
こんな人が……? って視線と声を、タメダは華麗にスルーして、改めて
「そいつ、あいの言っていることは本当だ。あいの母親である連理キョウカに双子はいない。親も死別しているし、あいに年離れた姉がいるってこともない。あぁ。ちなみに双子以外のよく似た姉妹がいたって形跡もない。戸籍遡ってまで調べたから間違いないはずだ」
指さした。
「娘一人。母親手一人だ。そうして俺は、たまたまコイツと仲の良い、近所のおっさんだ。立会人というか状況を説明できる奴がいないと混乱して無駄に時間喰うだけだろうからな」
「母親手ひとりってことは父親は……」
「去年離婚が成立している」
「…………」
まじでどうすんの……?
みたいな空気になる。
「特殊メイク?」って竜也のお父さんが気を取り直して言う。タメダが「なんなら頬でも引っ張って確かめてみるか?」挑発した。竜也お父さんが「ぐっ」ってなった。赤ちゃんお母さんが「むにーーー!」って自分の頬引っ張っているのを見て、ああ、その可能性考えてなかったなってわたしは今更思ったけれど、お母さんがびよんびよん自分のほっぺたつまんでいる以上、ないだろうなって。
視線を巡らせる向こう側。
そんな中、勇気出した一人が
「うちは、その子のせいで、一生目が見えなくなって、なって、なったんですよ、どうして、どうしてくれるんですかっ」
とか言う。
何の解決も期待できないけど、意見を言うこと自体に、訴えること自体に目的があったよう。訴えたところで、そうだけど、あっちから見て向こうも大変みたいだし、どうするも何もどうにもできなくないかって空気になってくる。
流れる。
「裁判?」って誰かが疑問系混じりで言った。意見の流れた御婦人が「そうよ。裁判。裁判起こしてやれば」って乗っかる。
タメダが遮って言う。
「ちなみにあいの家は既に経済的に破綻している。遠からぬうちに破産することになる」と言う。
わたしは上の空で聞いている。
誰かが言った。
「ねえ。あいちゃんは何であんなことをしたの?」と。
わたしは
「あ、」
と口を開くも、続きを喋ることができなくって、蛙みたいに口を引き結んでしまう。
それが、精神的大ダメージを負ったからなのか、大人たちの前で緊張しているんだか自分でもよく分からない。
代わりにタメダが説明した。
「既に報道にもある通りだが、男子連中に寄って集って抑えつけられたんだ。そうして服を脱がされ全裸にされた上で、その様をあんたらが息子に買い与えていたスマートフォンで撮られた」
「だからって」
「だからってなんだ? 泣き寝入りしろってか? じゃあ、あんたは大勢に体抑えられて裸に剥かれて写真撮られたらどうする? 泣き寝入りするか? 一生抱え込むだろ? 不安に思うだろ? 夜も眠れなくなるだろ? 終いには……ってこれは言わない方がいいな」
わたしの方に目をやった。
努めてそちらを見ないようにする。
「あいは自身で出来るでき得る限り最善の解決策を取った。それが相手の目を潰すことだ。スマホで撮られた写真なんか、例えその場でスマホを全部破壊したところで、後でクラウドサービスなりにログインされちまえば全て復活しているかもしれないだろ? だったら? もう二度とスマホなんて弄ろう触ろうなんて思うことのないようにしてやればいい。とっさにそう考えたのさ」
そんなこと考えてなかったけどね。
誰かに送られてたらもうどうしようもないし。
そんな時間もなかったと思うけど。
「目を潰しちまえば、スマホで写真なんか見ようともしなくなる。後は知っての通り。お宅らの息子さんは二度とあいの裸が楽しめなくなった。一旦の安心を得たんだ。しかし、あいは自分の裸以外にも代償を負う。この学校にはいられなくなる。な? そうだろ? 先生」
「はい。いずれお話するつもりでしたが……」
あ、起きた。
これについてはタメダから事前に説明を受けてあった。学校にはいられなくなると。わたしが起こした事件もそうだが、給食代など既に払いが滞っているものがいくつかあったらしい。学校側はそこもこの機会に突いてくるだろうと。
わたしは納得してた。
向こうのお父さんのうちの誰かが言った。
「たかが子供の裸だろう」
「ふ、へっ、へえっ!」
自分でもびっくりするくらいに、その言葉がわたしの涙腺にきた!
事件以来、ぜんぜん、ちょっと涙滲ませたくらいでぜんぜん泣いてなかったわたしだけど、この言葉にわたしは大泣きした。
「あああああああ。ああああ、ああ、あああああああ……!!!!!!」
お姉さんが立った。や、違う! おばあちゃんが立った!
おばあちゃん、たぶん武器を持って誰かを殴るのに、躊躇いや抵抗が全くないんだ!
パイプ椅子をおもむろに掴み取ると、勢いそのままその言葉を放ったお父さんに振り下ろした――
――ところを、黙ってなりゆきを見守っていたコミちゃんが防いだ。腕を顔の前に翳してガードして防いだ。
はじめてコミちゃんをかっこいいって思った。
泣きながらだけど。
コミちゃんの動きは速かった。目にも止まらなかったってかその時わたしは涙で前が見えなかったからよく分からないんだけど。とにかく速かったんだ。
感覚・共有
そんな言葉が浮かんだ。正解じゃないと思うけどね。
言葉を放ったお父さんは言葉に詰まった挙げ句逃げるように部屋を出て行った。そのお母さんも。ついでみたいにみんなが次々散っていき、部屋に残されたわたしたちは先生に「帰っていいっすか?」と聞き、出て行った。
なあなあで流れた。
たぶん、後日いろんな手続きが待っているのだろう。
「おばあちゃんコミちゃんありがとね」ってわたしは言いたかったけど、「ふ、ふ、ふぇ、ふあああああああ!!」って泣くばかりのわたしは何も言えない。お母さんたちに抱かれて守られながらみんなで並んで家へと帰った。
「並んで道歩くんじゃねーよ」というタメダのツッコミを聞き流しながら帰ったのだ。
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