まあちゃんから手酷い裏切りを受ける。
まあちゃんから手酷い裏切りを受ける。
一日中元気のなかったわたしが、たぶんまあちゃんにとっての様子見の期間だったんだと思う。
まあちゃんに弱みを見せた次の日には、わたしはお母さんがいなくなるってことになっていて、授業参観や運動会等のイベントで派手めなお母さんの格好を知っている人らは、「あー。やっぱり……」みたいな雰囲気になる。
ただ、女子たちにはわたしがお父さんを半殺しにした事実はそれとなく伝っているので、空気は今までとさして変わらない。
シングルマザーだの親が居ないだの、多様性という言葉が持て囃される現代では、いろんな奴がいることを理解し受け入れていく方が『なんか人間できてるみたいでかっこいい』ってされる雰囲気が確かにわたしたち子供にはある。
伝っているってか伝染している。
社会が。
狭量なのは格好悪いこと。
理解がないこと。
単純に興味がないのかもしれないし、或いはやっぱり触らぬ神に祟りなしで、わたしが距離を置かれているだけかもしれない。
気にしないし、どうでもいい。
距離を置きたい奴は距離を置けばいいし、それでもわたしがそいつを知りたいって思ったら近づいてってなんとか仲良くなってもらったり、お話したりするだけだ。
大事なのは、わたしがそいつを気に入るかどうか。
……違う。
こんなのはどうでもいい。
恐らく、わたしは自分でも思いの外ダメージを受けているのだろう。
言葉を重ねて『へっちゃらですよ~』なんて、ヘラヘラやってるだけだ。
うん。
わたしは傷ついている。
それは親友だと思っていたまあちゃんから、あの涙をわたしに見してくれたまあちゃんから、裏切りを受けたのもあるし、今のわたしを取り巻く環境が現在進行系でわたしを責め立てている事実もある。し……、
やっぱり何より、わたしが女の子だから。
男子共に引っ張り回されて素っ裸にされてま◯こ見られた。
まだ全然なおっぱいも見られたし、なんなら学校に隠れてスマホ持ってた奴に写真とムービー撮られてたぶん男子間で回された。
発端ってか言い出しっぺはたぶん竜也で、竜也はわたしに小馬鹿にされて泣いてその後いじわるな男子たちにいじめられたことを根に持ってたんだと思う。
根に持つタイプなのだ。
知らなかったけど。
休み時間に竜也が近づいてきて、「あいちゃんこの前の続きやらない?」って震える声で言ってきた時、わたしは周りの女子たちの空気が、なんだかいつも以上にどうしていいか分からない感が漂っていて、やや居心地悪かったのあって、一も二もなく頷いていた。
「うん。いいよ」って。
まあちゃんが気まずそうにしてたのもある。
あー、話しちゃったのか。
って。
どうしてやろうとかは考えなかった。単純にちょっと悲しかったな。
校舎裏の前とちょっと違う奥まったところで、なんでこんな場所まで来なきゃいかんねんって道中イライラしたけど、まあまたしゅんくんで解消しようってちょっとわくわくしてたから相殺。
「前からの続きで、あいちゃん対ひろきね」
って云われて一瞬「あれ?」って思った。
だって、あれから幾日か経過しているし、男子たちのその時々の流行って、けっこうしぶとく続くから、こうしてわたしがまた呼ばれたってことは、未だ格闘ブームは続いているってことだし、なんでまたあの時の続きなんだろう? って。
ふつーに訊いた。
「やってなかったの?」
「何が? いいからやろうよ」
って云われてそれもそうだなって特に何も考えず「ふーん」ってお互い返事にもなってない返事して流れで男子集団囲む中心にわたしが立った。
心なしか男子の輪が狭くって、わたしは内心『邪魔だなぁ……』って思ってたと思う。あんまり覚えてないけど、「ぶん投げてぶつかちゃっても文句云わないでよね」って挑発くらいはした。似たような言葉をひろきに吐いた。
ひろきは名前の割にひろき感がない。つか、ふつーにデブだ。ちびまる子ちゃんの小杉を想像してもらえればいい。まんまアレ。
見た目はね?
ちびまる子ちゃんの小杉は強情ってか業突く張りで作中屈指の嫌な奴だと個人的には思っているが、ひろきはわたしけっこう好いていた。
好きってそっちの意味じゃないよ?
なんかユーモアがあって良い奴なんだよ。同じまるこちゃんで例えるなら性格は長沢かな? 長沢はいい奴じゃないけど、卑屈で皮肉っぽい言い回しがユーモアあって面白いよね。
「あいが俺に勝てるのかな? しゅんは男子の中でも弱い方だよ? あいがどれだけ乱暴者でも体のでかさってのは何にも勝るんだ。そうだろう? ボクシングだってヘビー級ライト級バンナム級って階級が別れているだろう? こんな世の中で性別は言わないさ。男女平等だもんな。だが、サイズってのは平等以前の問題だろ? それは指標となって」
「なげーぞー。ひろきー」
「黙れひろき」
「うるせーひろき」
「バンナムwwwwww」
「バンタムな。バンナムはゲームやアホ」
「ふくっ」
わたしはぷくっと吹き出した。
ひろきは男子の中でも、ちょっと立場的には弱い方で、でもユーモアがあるから嫌われてはいない、絶対呼ばれる、でも無駄に喋るから集まったとき、それを小馬鹿にしていい雰囲気が生まれて、なんていうか、周りを和ます奴、イジっていい奴って認識。本人もそれを望んでいる節があった。
「ぐっ」
ひろきが言葉をつぐんだ。
何時になく真剣な表情をしている。
目が本気で、わたしは『ひろきの癖にわたしに勝つ気でいやがる』『でも、体でっかいのは事実だしなあ』『しゅんくんと同じ戦法じゃ無理?』『あれ? 柔道でいいんだっけ?』ってなってた。
実際周囲を囲む男子たちに尋ねた。
「ねえ? 柔道でいいの?」
「はじめ!」
「ちょっ」
「いけよ。ひろき!」
わたしがまだ聞き終わってないのに、試合は始まっていて、くるりと首を振り向いた時にはひろきはケツ蹴られていた。誰だかは見えなかった。それはさっさとやれよの合図でその時になってはじめてわたしは『あれ? なんかおかしいぞ?』って肌で感じた。
たぶん、ひろきはあの時、それとなく伝えてくれたんだと思う。
やめろ!って。
わたしはやめなかった。
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