タメダ

 スマホで周辺地域に犬の連れさりが起きていないかを調べてみる。いない。ならばと多頭飼育を調べてみる。ある。が、遠い。

 車はあるのか。あるだろう。こんな場所に住んでいれば。車のひとつ。

 そうすると、日中出かけて行ってどこか遠くから犬を連れてきた可能性だってあるのか。

 じゃなきゃ犬も母親同様、勝手に生えたか増えたかだ。流石にそれは……ないとも言い切れないのか。

 がしがしと頭を掻く。

 免許は持っているはず。問題は運転できるかだが、92だっつーばあさんの記憶がしっかりしているなら、運転はできるはず。未来(?)で免許返納でもしていなければな。いや、例え返納していたとしても、今はあるんだから関係ないか。

 8歳の犬猫だいすきらしい母親の命令に、92のばあさん母さんはほいほい従っているらしいから……

「ん」

 と、そこで気づく。

 持ち物はどうなっているのだろう?


 あいに聞きそびれた。


 あいの話じゃあ車が4台に増えているなんてことはなかったわけだから、元々の母親の持ち物はそのままなのだろう。車庫がパンクする。したら嘆きの言葉くらい出たはず。それは出ていない。

 ならば、分裂した時の服装はどうだったのだ? 全員が同じ服を着ていたのか? なんとなくだが、着ていた、もしくは一人が元の服を着用していて他が裸だったりしたらあいつの言った通り《分裂》だろう。

 しかし、全員が全員違う服を着用していたなら、それが各母親の正体を突き止める足掛かり、或いはきっかけになる

 気がする。

「し」

 帰ってきたら聞いてみるか。

「免許が4枚に増えていたら、不正仕放題だな」

 呟く。具体的な方法は思いつかないが、……4人に増えている時点で不正も詐欺も仕放題なのか。

 首を振った。


 興味だ。

 あいの家がどこかは聞いていない。近所の、犬がうるさい家であいの消えてった方角に脚を向ければ突き止めることなど容易だろうが、現時点でそこまでしようとは思わない。

 映画を見ている感覚に近い。

 本を読んでいる感覚に近い。

 冒険ものの。

 こどもの。

 SF染みているし、サスペンスっぽい雰囲気も今の時点であって、あまり趣味じゃないが。

 子供時代の特殊な経験は人を強くさせると信じている。

 手を借してやるくらいはいいが、俺が全てをやってしまったら面白くない。あい自身が稀有で奇特な運命に立ち向かっていって欲しい。


 俺はここであいつからあいつの話を聞きたいが為に今ここにいる。


 子供の話は好きだ。

 わけわかんなくておもしれーから。

 ぷ、

 電話が掛かってくる。

 出た。

「もしもし、タメダさん? 坂﨑の土地買収の件終わりました。提示した金額で持ち主も納得してくれて、今解体業者手配するところです」

「近所の人らは?」

「一人気難しいがいて、その人だけです。なーんかおっかなくって。すいません。手借してもらえませんか」

「あいよ。一時に迎え来い。土産でも買って行くぞ」

「うい」

 溜息をついた。


 タメダはとあるNPO法人団体の会長をしている。寄附や会費で団体を運営しており、その活動内容はといえば町に公園を増やすことである。

 地域の、子供の、憩いの場である公園を。

 それを増やすことにタメダは人生を捧げていた。

 この公園もタメダによるものだ。

 俺がいて何が悪いとタメダは通行人のばあさんにガンを飛ばす。

 

 

 

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