第7話 血の制裁事件

 ヴァンには健康な人の清浄な血が必要である。

 今でこそ問題のないものが届けられるようになったが、ヴァンは侯爵になって百年ほど経た頃、王国ではかつての悲劇が忘れ去られかけていた。

 平和を享受することに慣れた弊害かもしれないが、王国内ではヴァンの存在が軽視され始めていた。

 これに対し、王家は警鐘を鳴らしたが、立憲君主国となって権力の弱まった王家の声に耳を傾ける者は少なかった。


 この時代はヴァンの甥の息子のフラン三世が王であったが、フラン三世は先代の王からヴァンの人柄やその力の強大さを幼少時から聞かされていたので、宮廷や議会、軍人らには決して敬意を失ってはならぬと厳命していた。

 しかし、多勢に無勢という言葉の通り、王国民に至るまでかつてのヴェルド侯爵への敬意は失われ、中にはその尊い犠牲を侮る者まで現れた。

 フラン三世はいずれこの風潮は、いつか大きな厄災を招くだろうと予見し、その時には一切の責を己が負う覚悟を決めていた。


 問題が発生したのは、ヴァンに捧げられる血に関することだった。

 当時の王国における国教だったエリア教の法王は、ヴァンのような邪悪な者への供物は行うべきではないと主張していた。

 そして王国と魔王の契約がある以上国として行わねばならないのであれば、死人や不治の病人のような汚れた血を与えれば十分だと公言していた。

 公爵への血の供物を担当していた式典長は、エリア教の熱心な信者だったため、以前から発せられていた王の警鐘を顧みずに法王の言の通りにしてしまった。

 式典長のこの行為はすぐに内部の職員から王宮に伝えられ、王はそれに対し、すぐにこれを破棄し、新たに清浄な血を捧げるように指示した。

 しかし、汚れた血はヴァンに届けられ、ヴァンはこれに気づいて捨てさせた。

 ヴァンは新たに届けられた清浄な血を受け取ったが、このことは看過できないと判断した。


 ヴァンはすぐさまジュールに支度を命じると城から飛翔し、王宮を訪れた。

 王宮を警護する近衛騎士団は、侯爵の来訪に対して礼儀を欠いた。これもエリア教の影響だった。

 近衛騎士団長は、国王への連絡を遅らせ、ヴァンを自領に帰そうとしたのである。

 寝室で連絡を受けた王は即座に礼服を纏い、侯爵と会う準備を整えた。

 その時にはすでに遅く、近衛騎士師団は一人残らずヴァンによる制裁を受け、壊滅していた。

 団員に死者こそ出なかったものの、その後誰ひとりとして近衛師団に復帰することができなかった。

 ヴァンはこれらのことが、王であるフラン三世が指図したことでないことはわかっていた。謁見したフラン三世が、この不祥事は全て国王である自分の責任だとヴァンに告げたからである。


 これに対しヴァンは、王たる責は条約の不履行を企てた者を糺すことであり、隠すことではないと断じて、自ら式典長を捕えると、式典長を〈支配〉し、自白させ、背後にある法王に面会し詰問した。

 だが法王はこの時、あろうことかヴァンを汚れた卑しい魔物と罵倒し、教会に伝わる法具を持ち出して抵抗したが、吸血公のヴァンにはそのような法具ガラクタが通用するはずもなかった。

 法王と式典長はヴァンに捕縛され、その後、魔獣の森に遺棄された。

 彼らが再び王国に戻ることは無かったことは言うまでもない。

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