138話 瑛士と寧音と酒木の小樽観光(3人称)
寧音の運転で富良野から小樽までの2時間ちょっとの道を進む。
ゴールデンウィークだからか交通量は多かったが、特に渋滞にハマる事なく10時すぎには小樽へと到着した。
「ついたー!!」
「すんなり車停められて良かったわ」
「ね、小樽運河ってどこ!?」
「そこの大通りの奥よ」
「今日はどこ行く感じ?」
「俺あそこ行きたい!オルゴールいっぱいあるところ!」
「なら、運河沿いに歩いて堺町通りを進んで、最後にオルゴール堂に行きましょう。途中気になる店があったら寄って、ついでに聞き込みって感じでいいかしら。ひと通り見終わったらおたる水族館に行って帰りましょ」
「俺はそれで良いよ!」
「俺も。てか寧音ちゃん慣れてるね」
「まぁ、数日前に来たばかりだし、その時も案内役やったもの」
「車の運転に道案内まであざっす」
「気にしないで。いつものことだから」
寧音は先頭を切って歩き始めた。
3人は小樽の街を歩く。
瑛士は北海道に来るのは初めてで、酒木は北海道には1度旅行した事があるが、その時は小樽には来なかった。
街並みの写真を撮り、気になるガラス細工の店があったら入り、美味しそうな食べ物は買って食べた。一応寄ったお店で店員に軽い聞き込みをしているが、どちらかと言うと観光がメインになっている。
しかも観光客はかなりの数で、ダンジョンマスターである事を公開して活動している瑛士と酒木が一緒になって行動していれば普通に目立つ。
「あ、あの、瑛士くんですよね!サインしてください!」
「ガッくんじゃん!写真撮ろ!」
こんな感じに話しかけられる頻度も多かった。
酒木はある程度あしらっていたが、瑛士は話しかけられた全員にちゃんと対応しているので、進みが遅い。
それに怒る事なく寧音も付き合った。聞き込みで重要な事を聞けるなんて思ってないからだ。なんなら寧音も一度行って良かった場所に積極的に寄り道をしている。
「あの大っきいソフトクリーム買っていい!?」
「良いけどさっきもソフトクリーム食べてなかったかしら?」
「さっきは抹茶だったけど、今回はバニラにするんだ」
「あそこ辞めといた方がいいですよ。映え目的でただ大きくしてるだけで味はそこら辺のと変わりません。美味しいところ他にもっとあります」
「え、そうなの!?……て、誰?」
「初めまして。ショート動画で北海道のグルメや観光スポットを紹介してるナカタです。瑛士さんぜひ俺とコラボしてください」
そう言って唐突に現れた男は頭を下げた。
さらに“これ、俺のチャンネルです”と言って、スマホの画面を差し出す。
そこには【道民ナカタによる北海道旅】というチャンネルが表示されていた。登録者数は1.8万人と少ないとも多いとも言い難い数字だ。
瑛士はコラボの誘いに了承しようとした。しかし、いいよと言い切る前に寧音が遮る。
「せっかく人が旅行を楽しんでる時に邪魔しないで貰えるかしら」
ファンサとコラボ撮影じゃ流石に待ち時間が違う。この後は水族館まで足を運ぶ予定なのだ。水族館まで車で30分だし、旅館までの帰り道もまた時間がかかる。のんびり撮影なんかしてたら水族館に行けても見て回る時間が無くなるし、旅館に着く時間も遅くなるだろう。
寧音はこのまま断ろうとしたが、ナカタは折れなかった。
曰く、チャンネルの登録者数が伸び悩んでいるが、せめて2万人まで行ってほしい。1分の短いコラボ動画を1本でも上げたら絶対行く筈だから、なんとか30分でもいいから時間の都合をつけられないかとの事だった。
しかも、動画の内容はグルメを食べて感想を言うだけで良く、全員分の食事代を奢ってくれるらしい。希望であれば観光案内もするも言っていた。
寧音も酒木もなんなら瑛士も奢られるどころか人に奢れるくらいの金銭的余裕はある。
観光案内も事前に情報を調べて数日前に観光したばかりの寧音には不要だ。
ただ、酒木が意外にも乗り気だった。
「SNSで騒がれてなくて観光紙にも載ってないような知る人ぞ知る名店に連れてってくれるって事であってる?」
「食べたいジャンルの中から1番のお店を紹介しますよ」
「マジ?俺結構そう言うのに興味あるんだ〜。寧音ちゃんダメ?」
「……もう、仕方がないわね。1軒だけよ。あと、もし連れてった先があたしの行った事があるお店だったら入らずに帰るから」
「それで大丈夫なのでぜひお願いします。何食べたいですか?」
「瑛士、決めていいわよ。あんたがコラボするんだから」
「えーと、どうしようかな?今考えてみる!」
今買おうとしていたソフトクリームの美味しいところも気になるし、ちょうどお昼時だからがっつり何かを食べたい気がする。それに北海道だから海鮮も食べたいような気もするし、昨日の夜に食べたジンギスカンが美味しかったからそれをもう一度食べたい気もする。
瑛士は色々悩んで、数分後。ようやく決めた。
「カニ!カニ食べたい!」
「あー、カニですか……」
「何、無理な訳?」
「カニの旬は冬なので今提供してる店は自信を持っておすすめできないんですよね。他の海鮮じゃダメですか?」
「じゃあお寿司で!」
「寿司ならいいところあります。案内しますね」
と言う事で4人は寿司屋に来た。
小樽堺町通りからは少し離れたところにある一軒屋だ。鮨と書かれた暖簾がかかっている。寧音が来た事のない店だ。
ナカタが遠慮なく引き戸を開け、動画の撮影をして良いか確認するため1人で先に中に入った。
少しして、すぐに戻ってきた。
「大きな声を出さない、他の客を映さないなら良いそうです」
「ここ、割と高級店よね。この馬鹿がマナーを覚えてるとは思えないんだけど」
「そうでもないですよ。結構ライトな感じです。値段はリーズナブルとは言い難いですが……それに、大将は気の良い人なので余程の事がない限りは怒らないです」
「そう……なら良いわ」
一応改めて大きな声を出さないと瑛士に約束させてから店内に入った。
内装は寿司屋にしては明るく、入ってすぐにカウンター席6席、奥に4人座れるテーブル席3つがある作りだった。
半分くらい席が逆で埋まっている。
ちょうど空いていたテーブル席に通され、席に座るとすぐに給仕がお茶とメニュー表を置いていった。
彩にぎりという10貫セットが1番安く4,200円。1番高いセットは14貫の極にぎりで6,600円だ。お寿司は一貫ごとにも注文でき、セットだとあら汁がついてくる。
迷ったならとりあえず12貫セットの雅にぎりが良いというナカタのアドバイスで、寧音と酒木は価格が真ん中の雅にぎりを選んだ。瑛士は遠慮なく極にぎりを頼んでいた。
回転寿司と違って一貫一貫丁寧に握るため、提供のタイミングは1人ずつだったが、動画を撮るにはそっちの方が都合が良い。
提供された寿司をスマホでじっくりと映し、画角を瑛士に向けナカタが質問する。
「瑛士さん、小樽の寿司どうです?」
「えーと、いつも回転寿司しか行かないからなんか新鮮で良いなって思うよ」
「では早速食べてみてください」
瑛士は真っ先にまぐろを選んで食べた。
「美味しい!」
回る寿司屋と回らない寿司屋なら、回らない寿司屋の方が美味しいのが当たり前だ。ネタの新鮮さも大きさも違うし、シャリにもわさびにも拘っている。
けれど瑛士には語彙力がなく、“美味しい”以外になんの感想も出なかった。
ナカタはそれでも動画が撮れた事に満足していた。
本当にその1本だけで良いようで、撮り終わった後はスマホを起き談笑する。
全員が食べ終わり、ナカタが会計を済ませると店を出た。
「瑛士のおかげで2万人いけると思う。お二人も付き合ってくれてありがとうございました」
「本当にあれでいいの?瑛士、美味しいしか言わなかったけど」
「問題ないよ。がっつりのコラボじゃなくて後入れの音声と編集でドッキリ的な感じで出演させるから」
「確か動画編集は自分でやってるんだよね?すごいね。俺絶対無理!」
「慣れたら案外なんとかなるよ」
「俺もそーいうの無理だなぁ。あ、ナカタっちに聞きたいんだけど、おすすめのお土産ってある?姉に買っていかなきゃいけなくってさ」
「工芸系?食べ物系?希望ジャンルが教えてくれれば案内するよ」
「どうすっかなぁ……無難に甘いお菓子系か?おしゃれな感じの」
「おっけー、小樽駅の近くに良い店ある。今から行く?無理なら店の住所だけ送っておくけど」
この短時間で4人はずいぶんと打ち解けていて、瑛士達の目的が富良野のダンジョンマスター探しであるという事は伝えてある。北海道には詳しそうなナカタでも特に心当たりはなかったが、何かピンときたらという事で連絡先は交換した。
おすすめのお土産屋がオルゴール堂とは逆方向だったため、店名と住所を教えてもらい、また後で行く事になった。
なのでナカタとはここでお別れである。
「たぶん他の観光地も行くと思うから、美味しいご飯屋さん聞くね!」
「ナカタっちゴチ!お土産屋の情報もありがとう」
「ま、ちゃんと美味しいお店だったわ。何か情報あったらよろしくね」
別れの言葉を告げ、3人はオルゴール堂を目指し歩き始めた。
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