第18話 面倒
「――と、言うわけで......頼めるかな?賢人」
「......あ、ああ、わかった。見張り役やるよ」
僕の擬態事情を理解してくれている唯一の親友、賢人。僕がトイレを穏便に済ませられるよう見張り役を請け負ってくれた。面倒かけて済まない。今度なにかお礼をせねばな。
「それじゃあトイレに誰かいないかみてくる」
「ああ、頼む!」
トイレに入っていく賢人。ちなみにこのトイレは校舎一階にある二つのトイレの内、気持ち利用者の少ないトイレだ。
「お、おおおっ?なんかすげー可愛い子いるんだけど」
賢人を待っていると三人の男子が練り歩いて来た。僕を取り囲むように立ち、じろじろと顔をのぞきこんでくる。
(うわぁ、こいつら確か不良グループの......)
「こんにちはぁ。君何年生?すげー可愛いじゃん」
「なにしてんのこんなとこで」
「あ、えーと、その......」
「ふはは、震えてんじゃん!可愛い」
「あんた彼氏いんの?ちょっと話しよーぜ」
ぐいっと僕の腕を掴む不良の一人。連れてかれそうになったその時。
「おい、あんたら!何やってんだ」
「......あ?」
(......賢人!)
トイレの確認を終え出てきた賢人が不良を睨みつけた。僕は掴まれた手を振りほどき、賢人の後ろに隠れ身を寄せた。ああ、怖かったー神様仏様賢人様ぁあー!ありがとうございます!!
「だ、だだ、大丈夫か、秋人」
「う、うん」
いやどうした!?さっきまで威勢よかったのに急に声が震えだした!?
やっぱり賢人も不良が怖いのか......格闘技習ってても実戦となればやはり違うということ?
「大丈夫、俺の後ろに隠れてろ」
震えた声。だが、それでも僕を守ってくれようとするその大きな背中に、嬉しさと申し訳無さ......そして、それと同時に妙な気持ちがわく。
緊迫している状況もあって心音が激しくなり、呼吸も粗くなる。
「あー、なるほどな」
不良三人の内の一人、リーダーっぽい人が頭をかいて首を振った。
「そいつはお前の大切な人ってワケか」
「.....た、大切なっ、人!?」
賢人が激しく同様する。
「ちげえのか?その女お前のなんだろ?」
「お、おれの、お、お、女っ、おん、女ァ!」
壊れたロボットみたいになってる!大丈夫か!?
「彼氏がいるなら仕方ねえな。行くぞおまえら」
「うい」「あーい」
不良達が立ち去り、僕と賢人二人が残された。
「賢人.....大丈夫?」
心配になり賢人の顔を覗き込むと真っ赤な顔で僕から飛び退いた。
「......無理させてごめん、賢人」
「あ、いや、これは......違くて......その」
そうだよな。都合よく使うような真似して......冷静に考えると嫌われて当然かもしれない。
けど、こんど同じような事があったら、つぎは僕が体を張って賢人を守るから。
「助けてくれてありがとう」
今は、せめて助けてくれたことにお礼を――。
「あ、ああ。うん......えっと、その。気にしなくていいよ......ほ、ほらトイレ今のうちだぞ」
「!、わかった」
こうして僕は無事男子トイレで用を済ませることに成功した。ありがとう、賢人。
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