犠牲

 柿崎景家は、いつも通り敵をなぎ倒していった。

「村上殿、今に、待ってろ。助けに、行く、からな」

 飯富昌景がこう言った。

「柿崎殿、しっかりしてくだされ。おそらく、織田信長はまだ倒されていない」

 大勢の敵が襲いかかってきた。柿崎と飯富はそいつらを倒した。しかしそのとき、大量の矢が飛んできた。それが二人に刺さったのだ。

「これで、敵を道連れにしたことになる。御実城様、宇佐美殿、直江、甘粕、そして景満。俺は幸せだったな、仲間がいて」

「みんな、生きてくれ。俺のことはいい、戦うのだ。お館様、信次、必ず織田信長を倒してくれるよな」

 二人はゆっくり目を閉じた。

 甘粕景持と馬場信房は小さな船に乗っていた。船の上の敵を倒したのだ。しかし鉄甲船から鉄砲が放たれ、それが二人に直撃した。二人は倒れ込んだ。

「これでも、仲間を守れたのだろうか」

「それがしもそう思う。しかし、信長に一矢を報いることは、できたのだ」

 二人は顔に薄ら笑いを浮かべ、その言葉を最後に力尽きた。

 宇佐美定満と工藤祐長は巨大な船に乗った。

「この船には、敵がうようよいます。ですが、大量の火薬も積まれています」

「自爆ということですな?」

「敵を道連れにして死ぬ。それこそ軍師の姿です!」

「覚悟は出来ております」

 宇佐美は船に火をつけた。しばらくして、船は爆発した。二人の体は跡形もなく焼けてしまった。

 直江実綱と春日虎綱は敵の船から逃げていた。

「私たちは、かなり南の方まで来てしまったようです」

 敵の一人が言った。

「ここでは、南に行けば行くほど寒くなる」

「逃げなければ、逃げ弾正の名がすたる!」

 二人は逃げ続けたが、だんだん寒くなってきた。

「もういいんだ。もう充分逃げた。我らを追いかけていた敵も、死んだはずだ」

「わたくしはここまでです。直江殿は、生きてくだされ」

「春日殿!私も死のう、責めを負って」

 美しい春日虎綱と真面目な直江実綱。そんな両者は、氷河の上で息絶えた。

「もう耐えられぬ。いっそのこと打って出よう」

「我もだ。信次と景満は待っていろ」

 信長の攻撃を受けてしまった。信次と景満が現れた。

「もう、わしの家臣は散ってしまったようだ。わしは、海が欲しくてこの戦を起こした。こうして、海を見られるのは、幸せだな。だが、そなたに会えたことが一番幸せだった。ありがとう」

 信玄の命の火は消えた。その体はだんだん冷たくなっていく。

「決着がつかずに死ぬことは残念だ。だとしても、来世でも信玄と宿敵として争えるならば、我は淋しくはない。そして、必ず村上殿を救出してくれ。我はここまでだ」

 政虎は、宿敵の後を追った。

 戦国最強のライバルは中新世の大海原に消えた。

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