予想外な事態

 

スタッフが、慌ただしく告げた。

「すみません、リラ様。本日来る予定の方は外せない用事が発生してしまったため出れないと先程連絡が来ました」

「何ですって、突然舞人が」

これは相当大変な事態だろう。加えて、先程だからいきなりである。舞人は次のステージの出場者を意味しているようだ。

「はい、どうやら外せない急用が入ったらしく」

「そうなのね」

でも、冷静に受け止めている。このライブハウスの盛り上げ役とした働いてきたから、慣れているのだろう。リラ様は、すうっと深呼吸した。伏せられた目元のアイシャドウが証明で煌めく。

やがて、ゆっくりと開き、言い放った。

「次の舞人は指名で行うわ」

「指名か〜」

「リラ様の指名来た〜ーー!!」

指名に周りは大興奮だ。一般的にあり得ない現象に、唖然となる。口を開けて固まる私に隣のおじいさんが教えてくれた。

「おや初めてかい?この指名はなぁ、リラ様が良いっと思った人を選ぶやつなんじゃよ」

「選ぶ……」

その一言に、私は驚くほかない。おじいさんは、朗らかに懐かしむように語る。昔見た感動を思い出しているようだった。

「その中に選ばれた子には、現役で活躍するダンサーもおってのう……」

「現役で……」

相当審美眼が鋭いのだろう。未来のスターを発掘していて、注目のきっかけを作っている。一種のシングスみたいだ。誰が選ばれるのかな?と観客はそわそわしている。

(みんなワクワクしているなぁ…)

今回のに私が当たるわけないよね。だって踊れるようなオーラなんて出してない。人前に上がるのが苦手な漫画好き女子だし。

何より、私は笑われることが苦い思い出と化している。大好きだったも__。

「大丈夫か顔色が悪いようじゃが」

「大丈夫です。少し考えていただけです」

心配され、私は咄嗟に誤魔化す。昔の記憶が頭に過ぎってしまった。あのトラウマが私には残っていた。石のように固まって動けなくなりそうだ。

 私は、人の前で踊ることが怖い。昔のあの事から、私は人前で立つことが全くなくなっている。ダンスは勿論、発表も。

 失敗して、もし嘲笑されて責められたら。

(__怖い、でもあのステージは感動を呼び起こしたんだ)

 さっきのステージが頭に過ぎった。KEIがスタイリッシュに舞っていて、バレエのように優雅な印象も与えている。ステージのライトはダイヤモンドのように光り輝いていて、一種の楽園のようだ。そのステージは、スバルくんが作中で初披露した場面んみたいで、美しかった。

 その時のスバルくんのセリフが印象に残っている。

『努力して、挑んでいくからこそ、輝きは磨かれて煌めくんだ!』

 慎重な主人公ライカに対して発破をかけるシーンで、名場面上位に入る。この台詞でライカは、ダンサーを目指すことを決意する。

 まさに、スバルくんはライカへ夢を現させた人だ。KEIさんも同じに見えた。

 何故なら、私も“踊りたい”という心が生まれているから__。



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虹色スペクトルバイブス~性別を偽ってステージに立ちます⁉︎~ 香澄すばる @Subaru_glass

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