第9話【蚊帳の外】

え?


なんで転校してきたばかりの猫成くんが、宍嶋さんとお揃いのチャームをつけているの?


それにあのチャームって、確か…。


私はスマホを取り出して、近くの動物園の名前を検索する。


やっぱりだ。


あのチャームは、童武動物園ここのサファリバスコースでしか手に入らない特別なプレゼント。


それも、ランダムな…。


それを引っ越して来てすぐの猫成くんが持っているのはどうして?


それに宍嶋さんは先週まで、スマホに何もつけていなかった筈だ。


…この土日で2人はそれぞれ動物園を訪れた、

そして同じコースを回って、同じデザインのチャームを引き当てた?


そんな偶然、ありえるかしら。


もしも、"それぞれ"ではなく、2人が"一緒に"

行っていたとしたら…?


私の中に焦りが沸き上がり、渦巻いている。


…確かめなければ。



宍嶋さんが離席したのを見計らって、私は彼に話しかけた。


「おはよう!猫成くん、このクラスにはもう慣れた?」


「お…おはよう、夏梅さん。

えっと、ぼちぼちかな」


「そう…少し気がかりだったから。

猫成くん!改めてよろしくね!」


「う、うん。よろしく」


「そうだ!お近づきの印に、PINE交換しない?」


「え!?」


「ダメ?」


「い、いいけど」


彼がPINEを開いている間に、私は探りをいれていく。


「そのチャーム、かわいい~!

それって童武どうぶ動物園限定のやつでしょ?」


「うん、そうだよ」


「この土日に行ったの?」


「土曜日に妹と」


「え、妹さんいるんだ~!小さい子?」


「小学校3年生」


「えー!お兄ちゃん!って甘えて来るんでしょ?いいな~!

あ、PINE開けた?」


「開けたけど…どこから友だちになるんだっけ?

…この前やったばかりなのに…あ、いや、なんでもない。

ごめん、慣れてなくて…」


「ちょっと借して」


彼の手からスマホを奪い取り、スイスイと操作する。


あっ…。


私はスマホを借りたことを後悔した。


ホーム画面の友だち一覧に、家族らしき名前ともう一つ【しししま】というアカウント名が目に入った。


それを見た私は更に焦ってしまって、余計なことを口走った。


「宍嶋さんとはどう?仲良くなれた?」


「え?!あ…ま、まあ、普通かな?」


猫成くんは頬を赤らめて、そう答える。


その反応は普通じゃないじゃん。


…っ!


やだ!やだやだやだやだ!!


宍嶋さんの隣が私じゃないなんて!!!


……どうにかしないと…。


猫成くんの注意を宍嶋さんから引き離すには…!


「……はい、友だちになれたよ」


「あ、ありがとう」


「ね、猫成くん!それと私、猫成くんのこと好きだから!!」


「え!!??…え?!え!?

夏梅さん?!?!」


…ごめんね、私、嘘つきだ。


自分の目的のために、思ってもないことを平気で言えてしまう。


「果耶、そこ、あたしの席なんだけど」


「うわ!?宍嶋さん?!ごめんね!

すぐにどくね!!猫成くん、またね!」


「う、うん…」


宍嶋さん、いつから後ろに?


まさか今の告白、聞かれてないわよね?!



はぁ…。今日はなんだか疲れたな。


あんな言葉うそがスッと出てくるなんて。


私ってホント最悪だ。


でもね、猫成くん。


私、蚊帳かやの外にはいたくないの。


宍嶋さんの隣だけは、どんな手を使っても絶対に譲らないから。




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