落とし物


 志渡澤が使った何らかの方法で追ったダメージ。

 しかし、それを無視して今は目の前の目的へとザンマは目を向ける。

 彼の目的は異能倶楽部のボスであるルカだ。


 当初の目的として見据えていた無異は他ならぬルカの手で葬られた。

 変身を可能とする異能は有用性が相当に高い。

 しかし、過去のルカの異能をまじかに見たものの記憶、そして何より自身が目の前で見た異能の光景を見ればそれが欲しいと欲求が湧いた。

 取り上げられた獲物の代わりにルカの異能がザンマの目には魅力的に映った。


 ただ、奴の異能を狙うにしても無策では成功の目はないだろう。

 とは言え、全くの勝算がないと言う事もないだろう。

 桐坂を始めとする実力者たちを薬を始めとする工作を経て落としている。

 ならば、真正面からの勝負をする必要はない。


「奴らにも声かけるか」


 誰か心当たりがいるのかそう呟いた。






 ◆


「いやー久しぶりに動いた」


 公園から帰還した俺はそんな言葉を吐いた。

 運動能力で言えばそれはもう悲惨なほどに低下していたものの体を動かすのは気持ちが良かった。

 元の体がハイスペックと思えるほどのヘナヘナボディではあったものの運動が元来好きではない俺が充実感を得る結果となったので良しとしておく。


「ギソウモダイジカ」


 何かを呟くアナを他所にそう言えばと家の中を見渡した。

 ツムギちゃんの姿がないのだ。

 アナに続いてツムギちゃんまで……なんて思ったものの背後のドアがガチャリと開いて当の本人が現れた。

 どうにも話を聞けば出かけていたらしい。

 手に待つレジ袋から推測してスーパー辺りに買い出しに行ってたいのだろうと予想をつける。


「お帰り、ツムギちゃん」

「うん。ただいま」


 そう言ったツムギちゃんは冷蔵庫に野菜類をいれたあと、調理に取り掛かった。

 何か手伝いたいところであるが何もできずに俺はテーブルを拭いてお箸を出しておいた。

 ツムギちゃんは「時間がなかったから簡単なものだけど」なんて言って色々と出してくれる。

 それはもういろいろだ。一品ではない。

 強いて言うのなら和食。

 ご飯があって味噌汁がある。

 正直俺にはどこが簡単なものであるのかなど分からない。

 工程が感嘆かどうかはともかくとして数種類作るのが大変だろうと言う予想くらいはつく。


「うまい」


 ただ、一口食べた後に考えていたことなど忘れて食事に夢中になった。





 ◆


 5月6日ゴールデンウィーク最終日。

 明日からまた学校が始まると思うと憂鬱である。

 それにしばらくしたら定期考査もある。

 五月下旬とあってまだまだだけど、先日勉強会をやったようにこの学校の人たちは結構早めに取り組むようだ。

 と言うか、このレベルの人たちがこれだけ早く準備を始めるくらいの難易度であることを思えば震えが止まらない。

 赤点取ったら死んだりするのかな。怖い。


 いや、逆に考えればいいのかもしれない。

 頭がいい人たちですら苦戦するテスト。

 ならば、別に俺が高い点数を取れなくても不思議ではないんじゃないか?

 俺の学力が1だとして他のテストの勉強をしていない人の学力が50だとしても、テストに必要なのが70であったらどちらも不合格。

 内情がどうであろうと点数がそこまで変わらない可能性もある。


「まあ、きっと」


 そうはならないんだろうなと思う。

 どうせ勉強できないとか言いながら20点30点取るのだ。

 2点とか取ったことなさそうな人たちばかりだし。


 そんなことを思いつつも俺は首を振った。

 勉強について考えることも大事だが、今日は連休最終日、いったん忘れよう。

 この連休中何度も「絶対の三日間登校日」さえなければと嘆いていたのに許されて時間すらも無駄にしては笑えない。


 ツムギちゃんが作ってくれた朝食を口に運びつつそんなことを考えた。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせてそう言った後、食器を運んでふと思い出す。

 そう言えば、中華を食べに行こうとした日に服を買おうと思っていたのだった。

 それなのに「陽炎」とか言うよくわかんない異能組織のいたずらで計画が頓挫してしまったことを思い出した。


 せっかくお金もかき集めて準備したのに。

 ってあれ?

 こんなにもと思いながら財布の所在を探った時、最後にどこに置いたか思い出そうとして明確に思い出せない。

 そう言えば昨日自販機で物を買ったときは持っていた。

 それで……どこにやった?


 自動販売機化公園か。

 それとも西洋風の男がいた路地か、はたまた道中で落としている可能性もある。

 だが、なんにしても探さない手もないだろう。

 俺のなけなしのおこずかいを入れた財布だ。

 なくなったら困る。


「どうしたのリオ君。急に立ち上がって」

「うん。昨日ちょっとした忘れ物をして」


 「少し外出て来るよ」と言って俺は家をでた。

 普段の俺であれば外など面倒くさくて行きたくないけれど今は緊急事態だ。

 俺の全財産がかかっている。

 日本の治安を信じて無事なことを祈っているが探さなければ始まらない。


 ゴールデンウィーク最終日になってこんなことをする羽目になるとは思わなかった。

 兎にも角にも俺は家を出た。

 もちろんアナはお留守番だ。昨日のように運動をするわけでもないし。

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