GW

「リオ、オキル、スル」

「ん……むにゃ?」


 早朝、そう言うには少し遅い気もするがとにかく朝。

 それはそんな声に起こされた。


 片言の日本語に重い瞼を持ち上げれば、金の髪が視界に入った。

 さらさらとした髪は、それでも寝起きだからか若干の乱れが見えた。


「ふぅあわ~」


 口に手を当てて起き上がる。

 時間を見ればいつもより少し早い気がする。


「もう少し遅い時間でもよかったのに……」


 そんなことをポツリと呟く。

 別に起こしてもらっておいて文句を言うのは失礼ではあるのは承知の上ではあるのだが、朝と言うのは一分一秒でも寝ていたいのが常である。

 そして、それを聞いた金髪幼女は口を開いた。


「ハヤクオコスシナイト、ツムギニ、サキ、コス、サレル」


 早く起こさないと、ツムギちゃんが俺を起こしに来てしまうと言いたいのだろうか。

 小さいうちは何でも自分でしたい時があると言うし、俺を起こしに来るという役目をしたいがために早く来たのだろう。

 でも、ツムギちゃんに譲ってほしいと頼めばいいのに。

 ツムギちゃんだって、面倒ごとが一つ減るのだから嫌だとは言わないと思うんだけど。

 まさか、ツムギちゃんも俺を起こしたくて、意地でも譲らないなんて事とはないだろうし。

 そもそも、この幼女には俺が自分で起きれないと思われているのだろうか。

 俺だってツムギちゃんに起こしてもらう申し訳なさから自分で頑張って起きているのに。

 まあ、この子が来た日、つまりツムギちゃんが一緒に暮らすようになって、少し気が緩んで連日起こされてしまっているような気もしなくもないが。


 そんなことを考えながら俺はリビングへと向かう。

 歩きながら「そう言えば」と言葉を吐いた。


「アナは随分と日本語が上手くなったな。まだ、ここに来て一日二日とかそこらなのに」


 異常と言っても良い上達スピードに俺は目をむくことも少なくない。

 俺なんてよく考えれば、学校の授業と言えど何年も英語をしているのにも関わらず全く出来ない。

 ここで言う全くと言うのは、中学英語も出来ないと言う意味だ。

 中学英語くらいしか出来ないよ。なんて、俺の前で言って見ろ。睨んでやる。

 まあ、この身体じゃあ可愛さが勝ってしまいそうではあるのだが。


 それはそうと、俺が口に出した通り、この子の名前はアナと言う。

 いや、正確に言えば、確かアナベルだったか。

 だけど、本人経っての希望でアナと呼ぶことになっている。


 そんな考えに耽る俺を他所にアナは俺の言葉に答える。


「ニホンゴ、ムズカシイ。ケド、キョウミブカイ」


 素晴らしい心の持ちように俺は、自分のことを棚に上げて感心する。

 まあ、そんなことより俺はこの子がどうして一人で、それも俺の家に居座るようになったのかに関心を寄せてはいるのだけど。

 だけど、あの日に思った通り、ツムギちゃんが判断したことだから間違ってはないのだろうけど。

 若干、話が出来るようになった今なら自分で聞いても良いけど。


 そんなことを思っていれば、当たり前だが俺の部屋はそう広くない。いや、高校生の一人暮らしにしては大分広いけどそれにしたって公共施設のような面積は有していない。

 すぐにツムギちゃんのもとへとたどり着く。


「おはよう。リオ君。でも、どうしたの、随分と早いけど」


 一瞬、俺が手を繋いでいるアナに目を向けた後そう言った。


「早いって言っても十分かそこらだけど……」

「学校行く日と比べたらそりゃそうだけど。普段の休日はもっと遅くに起きて来るから」


 普段の休日はそりゃあ学校がないからそうなるけど。

 いや、待って。

 ツムギちゃんが俺の家に住むようになってから、まだ休日は来ていないはず…………。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。


「学校行く日と比べたら……?」


 一瞬意味が分からずに疑問符を頭に浮かべる。


「今日って、金曜でしょ?」


 そう声に出してみるもだんだんと答えを告げられる前に真相に近づく感覚がする。

 だが、俺が自力でたどり着く前に彼女は言った。


「だって、今日からゴールデンウィークだし」


 もの凄い、それはもうTSしたあの日と同じくらいの衝撃を俺は受けた。






 ◆


 ゴールデンウィーク。

 その言葉を聞けば、それはもうゴールデンであってウィークであるのだが。

 そんな重要と言うか、人生における楽しみというか。

 とにかく忘れるなんてことはありえない連休がすっかり頭から抜けていたのには理由があった。


 そう、その理由とは今年のゴールデンウィークはそれっぽさがないのだ。

 と言うのも、簡単に言えば今年のゴールデンウィークは二部構成である。

 つまり、俺が異能倶楽部の皆と中華に行った4月27日を初日として29日までの三連休である一部。

 そして5月3日である今日から四日間の第二部である。

 で、これの何がいけないかと言えば、一部と二部の間には『絶対の三日間』があると言う事だ。

 

 つまるところ、その三日間は学校に行かなければいけない。

 そのせいでゴールデンウィークと言う特別感は薄れて、体感で言えばただの三連休と四連休。

 別にその二つが嬉しくないわけではないのだが、最大で10連休なんてこともありえなくもないゴールデンウィークにおいてそんなものは霞んでしまう。


 とかなんとか考えていると、不意にアナが口を開く。


「スマナイ。ニホンノブンカニハ、マダクワシクナイ、オオイ」

「いや、別にアナのせいじゃないよ。起こされなくたってどうせ自分で起きていたわけだし」


 そう言いながら、スマホを出してアラームを解除した。

 普段から起こしてもらうのは申し訳ないと思って自分で起きるようにしているのだから、誰に起こされなくとも起きていただろう。


「それよりご飯食べよ。せっかくツムギちゃんが作ってくれたんだから」


 そう言って俺は席に着く。

 せっかく早くから起きて作ってくれたのだ、冷めないうちに食べるのが最低限のマナーだろう。


「「いただきます」」

「イタダク、マス」


 俺たちは手を合わせてそう言った。

 恥ずかしながら、一人で食べるときは忘れがちないただきますの挨拶をしながら箸を持つ。

 全く言わないと言う事もないが、一人だと忘れてしまうのだ。

 そんな言い訳をしながら口に食事を運ぶ。

 そして思わず言葉を洩らした。


「うまい」


 連日彼女のご飯を食べている俺はそのおいしさは知っているのだが、それでも思わすそう声に出る。

 そんな様子をツムギちゃんは微笑ましそうに見て口を開いた。


「よかった」


 そんな俺たちを他所に、アナは慣れない箸に四苦八苦しながらも口にご飯を運んではおいしそうに咀嚼する。

 

「オイシイ」


 小さくそんな声を洩らした。

 そんな様子を見ていた俺のもとに不意にツムギちゃんが声を掛けた。


「でも、リオ君が早く起きてきてよかったかもね。早く着いちゃいそうって連絡来ていたから」

「もぐもぐ……もご?」


 何の話だろうかと俺は首を傾げそうになるも食事中だと何とか我慢する。

 その様子を見てツムギちゃんは俺に思い出させるように言った。


「学校で、篠塚さんに誘われてたでしょ。勉強会」

「べんきょうかい……あ」


 完全に頭の奥底へと封じられていたその情報に俺は声を洩らした。

 勉強会と言えば、まあ、その名の通りではあるのだが。

 なぜそんな話題が出たかといえば、ゴールデンウィークが明けて少しすれば中間考査があると言う話題が端を発した。


 それはゴールデンウィークにおける『絶対の三日間』、つまるところ一部と二部に挟まれた三日間の出来事であった。

 出来事と言っても日常の一コマ、確かHRの後だったと記憶しているが、ギャルの人こと篠塚さんに誘われたのだ。

 何にと言えば勉強会に。


 最初は断ろうと思った。

 まず第一に、ギャルの人であると言っても篠塚さんは俺に優しい。

 でも、勉強会をすると言う事は他のギャルの人もいるかもしれない。

 つまり、怖い。

 そんな考えのもと俺は断ったのだが、どうやらギャルの人は彼女一人らしい。


 そして他のメンバーと言えばツムギちゃんにユキナちゃんだと言う。

 なら、と思ったのだ。

 別に俺は陰キャだけど、自分からなりたいと思ってなったわけではない。

 でも、ツムギちゃんとユキナちゃんが居てくれるなら何とか頑張ろうと思ったのだった。

 異能倶楽部の皆と関わってから大分前向きになった新生御野間リオであればこんなことも出来るのだ。


 と言う事で、昨日は随分と気合を入れて寝床についたはずなのだが、すっかり忘れてしまっていた。


 そして、俺たちが朝ごはんの食器やらなんやらを片付けて、一息ついたとき、インターホンが鳴った。

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