「アルディラ王手記集 ~最後の王~」より

第1話 シド

 にとって、シド・スワロウテイルに会うのは、これが三回目になるらしい。


 一度は覚えている。つまり最初に会ったのは、まだ本物の王のほうだったということだろう。


 シドは、とても愉快な男であり、とても危険な男だった。

 世を捨て銀嶺山に閉じこもった隠者だと聞くが、まだ若い。

 軍務尚書の命を助けてくれたことで、礼をもって遇することとなったが、残念ながら、余には何もしてあげることができない。


 その日から、内務尚書と軍務尚書の仲違いが、余の耳にも入るほど、悪化した。余の耳に入るようでは、宮廷内の全てが知っていることだろう。


 シドが言うには、内務尚書はシドを亡き者にしたいのではなく、反王室の旗頭にしたかったのだろうと考えている様子だ。


 なるほど。双方共になかなかの智者という噂は本当かもしれぬ。


 銀嶺山に火を吹く闖入者がいなければ、もしかしたら、そのシナリオがまかり通っていたのかもしれない。


 いずれにしろ、余には最早関係のないことであり、そして残された時間の無い中、それに拘ることも無意味である。

 兄、いや軍務尚書より、しばらく側に置くとされたシド・スワロウテイルは、余の正体に気付いている。面白いことに、そんな余のことを、不憫とも哀れとも言わず、「事情がございましょう」とだけ言い、後は普通に接してくる。


 とても愉快な男であり、とても危険な男だった。


 何よりも異世界からの転移者なのだから。


 銀嶺山より戻ってきたファイアストン卿が、シドをしばらく王宮に置くと言い出したことに反対する理由はない。


 私は傀儡。王の影武者なのだから。

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