第13話 揺れる世界
「失礼します、本日付で本部門に加入することになりました、ドン——」
「——おっ、君が期待の新人君?」
隊長であるエヴズヴァに割り振られた役割——情報分析班、もとい情報部門の活動拠点である指定された部屋に入った途端、その姿を見るなり誰かに話しかけられる。
その室内は情報部門というだけあって部屋全体がディスプレイ等の画面がひしめくように設置されており遮光カーテンで閉め切られ、コンピューターの駆動音が猛獣の低い唸り声のように木霊する空間だった。
「えっ……? あ、いや、期待されるほどでは——」
挨拶をしようとしたドンワーズは、そんな室内を眺めながらも不意を突かれ静止してしまう。ドンワーズの肩を、彼の死角から軽くポンと叩き距離を縮める男がいたからだ。
「謙遜しなさんなって。ドンワーズ・ハウ、だった? 隊長からはもう聞いてるよ。いやー、同じ情報部門の同僚でこんな天才が入ってくるなんてプレッシャーだなぁ、ははは」
妙に馴れ馴れしく笑いかけてくる男はドンワーズとさほど年の変わらない男だった。ドンワーズより少し細身で茶色い短髪。どこか童顔の顔つきは十代の青年のようにも見える。
スーツをだらしなく着こなしているせいでそれ全体にはしわが目立つ。本来首元にあるはずのネクタイは、椅子の背もたれにくたびれたように身を委ねていた。
「あなたは——っ」
「あっはははは!!〝あなた〟って!あはははは!!!」
何が可笑しいのか、顔を抑えながらげらげらと爆笑しだす自称同僚の男。
「ええと、あの…………」
「——おい、うるさいぞ。仕事中だバカタレ」
——と、絶賛爆笑中の男から見て向かいのデスクに座っていた別の人物が、水の入ったボトルを勢いよく投げつけた。空気を裂くような勢いで飛来したそれは男の額に直撃し、ゴッ、と鈍い音を立てる。
「ぅあだっ——!!?」
「ったく…………。おい新人、そこのバカは放って早く自分のデスクに座れ」
「あっ、は、はい…………」
奇襲を受けた額を抑えながら床でもがく〝バカ〟を困惑しながら一瞥し、いそいそとデスクに身を据える。
「…えーっと、その……」
妙な空気感に言葉を詰まらせながらも、相手の方をちらりと見た。しかしドンワーズのことなど見えていないかのように、キーボードをせわしなく叩き続けている。
しかし、やがてその視線が気になったのか手を止め、ドンワーズの方に視線を向けた。
「……あぁ、自己紹介が必要か」
終始困惑気味のドンワーズを見て少し愛想の悪そうに、顔に掛かった赤く長い前髪を勢いよくかきあげた。ジャケットを脱ぎ、ドレスシャツ姿の女性はこちらに向き直った。
「んじゃ改めまして……アタシはラーザ。ラーザ・ディポル。役職は君と同じここの情報分析官。以上。質問はある?」
「あ、いえ……ドンワーズ・ハウです。よろしくお願いします」
「あぁよろしく。じゃあここの仕事教えるから、よく聞いて」
「おいラーザ、俺の事は無視かよ?」
「——えっと、まず君の前職……あぁ、その元居た世界での仕事ね。君の情報はここへの配属が決まった段階で送られてきたから、だいたいは知ってる。何が言いたいかっていうと、多分君が以前していた仕事と、ここでする仕事にそこまで差はないかもってこと。まぁ、そこと文明レベルは違うと思うから機械の使い方とか分からなくなったらいつでも聞いて」
「相変わらず教え方が雑だなぁ、そんなんじゃ分かるわけないだろ?」
いつの間にか立ち上がり、ぶつけられたボトルをひょいと弄びながら声をかける。その額は苦痛を視覚的に訴えるように赤くなっていた。
「はぁーい、新入り君。改めまして、俺はサントム・リックバン。さっきは笑って悪かったね。そこのラーザとは同期でさ、まぁ、取っ付きにくい奴だけど可愛いところもあるんだ。仲良くしてやってよ」
「うるさいぞ」
「よろしくお願いします。サントムさん」
「やりづらいから、いちいちそんな丁寧に喋んなくていいって。ほとんど同年だろ?」
「あぁ……分かった。サントム」
とにかくデスクに座り周辺を色々と見渡すと、デスクの足元で光を反射している物体が落ちているのに気が付いた。
気になり、それを何となく拾って見てみると「ギルバルト」という名前が書かれた小さいアクリル製のネームタグだった。少し埃を被っており、表面には小さな傷が付いている。
「……これは?」
「ん………? あれ、これ……」
ラーザはそれをドンワーズから受け取り視界に入れる。すると、何か嫌な物を見るかのように少し顔をしかめた。
「ここの所属メンバーの人のですか?」
「……いや、これは——………そう、裏切り者の名前だ」
吐き捨てるように言うと、彼女は付近のごみ箱にそれを無愛想に放り投げた。
「…………?」
「まぁ、情報部門を名乗る上でも、君には共有しておいた方がいいかな」
サントムはそれについて話すかどうか少し逡巡していたようだったが、そんなラーザの表情を見て、気にかける様に口を開いた。しかし、そんなサントムを制するようにラーザが先に言葉を発する。
「……元々、少数精鋭で動いていたアタシら情報分析班は、君が来る前はアタシの他にサントム、そしてその…………ギルバルトという男が居たの」
「………そう、あのクソ野郎さ」
「元は別の部門に統合されてて、数年前にこの部門が情報部門として独立してね。それで独立からずっと、アタシらは一緒に行動してきたんだ。でも……」
先ほどまで憎しみに満ちたような顔をしていたラーザの表情は、いつの間にか今にも泣きだしそうな程に表情が崩れていた。
「いいラーザ、俺が説明するよ」
そんなラーザを気遣ってか、サントムが代打を担当した。
「まぁ………結論から話すと、その男はターヴォルのスパイだったんだ」
言いだしっぺの彼もどこから話すか少し逡巡するような仕草を見せたが、まずは結論から口にした。
「ターヴォル?」
「あぁ、そっか。ドンワーズはまだ知らねえよな。ターヴォルは、こっから見てずっと西方にある軍事国家だ。パホニよりもデカいしずっと先進的。『クヴェルア』を代表する五大国家の中に含まれてる」
「なるほど………。それで、そこのスパイがここに紛れていたと」
「そう。個人的な事情は省くが、とにかくアイツはここを裏切った。まぁ裏切ったっていう表現はおかしいか。元々スパイだったんだからな」
「逮捕とかには至らなかったのか?」
「そりゃこっちだって、そんなことされて黙っちゃいないさ。だが、相当用意周到に計画されていたんだろうな。身元は何とか割れたが、逃げられてからは全く足取りを掴めないでいる。まぁ単純に向こうに帰ったんだろうが」
ネームタグがデスクの下に落ちていたことから察するに、ドンワーズの席がその彼の席であることは明白である。彼はそんな席を改めて凝視し、懐かしい思い出に浸るような眼をするが、すぐに思い直し、短く息を吐く。
「………んで、その時から、俺らの仕事がもう一つ増えたってわけ。当然キミにも手伝ってもらうからな、新人くん」
「……あぁ、分かった」
ネームタグが投げ捨てられたゴミ箱をなんとなく眺めながら茫然と、しかしはっきりと答えた。
「………すまない、ドンワーズ。会って早々情けない姿を晒してしまった」
「いえ、そんな………謝らないでください」
ドンワーズとしてもどう声をかけていいのやら分からずあたふたするばかりであったが、彼女はすぐに息を整え、顔を直した。
「ふぅ——このことはこれで終わり。さぁ、作業に戻るよ」
何事もなかったかのようにディスプレイに向き直り作業を再開し始めるラーザの姿をおっかなびっくり見ていたドンワーズにサントムが僅かに笑いかける。
「ま、切り替え早いのが長所なんだよね。今みたいに突然フラッシュバックしてはああいう感じになるんだけど」
「そう、なのか……なんというか、大変…なんだな。彼女も」
「あぁ。あの件があってから少し精神的に参ってる部分があるみたいでな。一か月前くらいの出来事だった。二人の間に何があったのかっていうのは…まぁ察してくれ」
ドンワーズが『クヴェルア』に来た時くらいの出来事だと知り、そう時間が経過していないことを考えると彼女の傷心も理解できる気がした。
「まぁとにかく、そういうことがあったってことだけ知っててくれたらいいから」
「分かった、気に留めておくよ」
その日は年間の気温と比較しても特段暑い日だった。大量に抱えているコンピューターの為に空調こそ効いているものの、程よくじっとりとした暑さを感じていた。気温によるものなのか、精神的に感じるものからなのかは分からなかった。
改めて席に着き、かつてその裏切り者が使っていたディスプレイを起動する。数年間、もしくはそれ以上使いこまれ埃が随所にこびりついた備品であるキーボードや周辺機器にどこか懐かしさを感じながら新しい仕事を始めるのだった。
◆
——ターヴォルとは、『クヴェルア』の中で今最も勢いづいている国の一つと言っても過言ではない。しかし、そういった国はしばしば判断を内外的にも間違えがちである。
そういう勢いというものは、普段ならしないような、もしくは冷静に考えたらしないようなことにも手を染めてしまうきっかけにもなり得る。
これから始まる、僅か一年で終結する戦争は、そんな些細な弾みから生じるものだった。
男は口内の側面に舌を押し当て、やさぐれたような顔をしていた。
「よう、ギル。戻ってたんだな……。何してんだ……?」
ターヴォルのとある諜報組織の本部。彼の国が抱える諜報部門は多岐にわたるが、その中でも彼ら、ギルバルトなどが所属する部門に関しては他と一線を画すところがあった。
「?……あぁ、お前か。いや、何でもない」
同僚にギルと呼ばれた男は、端末の画面に映っていた画像——写真を誤魔化すように閉じた。
パホニでの任務を終えターヴォルへと帰還していた彼は一連の通告を受けた後、落ち込むというわけでも、腹を立てるというわけでもなく、ただひたすらに悶々とした感情が全身を駆け巡っていた。
「なんだ、まだ未練でもあんのか?まぁ、諜報員が現地の女と懇ろになるのは珍しいことじゃねぇけどよ」
「………あぁそうだ、未練ばっかだ俺は。別れの挨拶だってできやしない。くそったれの上層部のせいでな」
「お前はこの仕事向いてねぇんだよ。あんだけ散々釘刺されておいてコロッと落ちやがって。向こうも一応諜報員だろうが」
どちらに非があるかと問われれば、ギルバルトが悪いというのは客観的にも主観的にも一目瞭然だった。そのせいでギルバルトがターヴォルの諜報員であるということも露見したのだから。
「ったく、パホニでのお前の個人情報を抹消するのがもう少し遅れてたら足がつくとこだったんだぞ、ちったぁ反省しやがれ」
「反省はしているさ。反省はしているんだ………本当に。ただ、彼女にもう一度会って、しっかりと別れを告げたい」
「それは反省してる人間が言うセリフかな?」
一向に恋人のことしか頭にないギルバルトにウンザリしながら、向かいの椅子に腰かける。
「普通ならとっくにクビだよ。お前は特別強いから、上も手放したくないんだろうさ。ふざけた優遇措置だな、まったく」
「お前だって、組織の中ではトップクラスに強いじゃないか」
「……まぁ、それは否定しねぇけど」
さらっと流したが、男の口角はわずかに上がっていた。
「次の戦争、俺たちも駆り出されると思うか?」
「…………。まぁ、そうなるだろうな」
「
男は手に持っていたボトルの中で波打つ液体をぼーっと眺めた。
「はぁ、嫌だねぇ。地道な諜報活動か、戦闘か。どっちかにしてほしいよ」
「お前は今まで、その地味な活動にガールフレンド付きでやってたんだからいいだろ。俺はここ数ヶ月、緊張地でいつ流れ弾に当たるかわかんねぇような状況でひぃひぃ言いながら活動してたんだ。それに比べりゃ楽園みてぇなもんじゃねぇか」
悪態をつきながらボトルの蓋を開け、容器を傾ける。重力に従い一見水に見えるそれは逃げ場を求めるように男の口へと流れ落ちた。
「その水、やっぱおいしくないよな」
同意を求められたが、やはり後味が苦手だった。僅かに頷くと、空になったボトルはそのままゴミ箱へと投げられ、文字通りゴミとなった。
◆
「『クヴェルア』の統一、ですか」
「あぁ、どうもそういうことらしい」
治安維持部隊、隊長室。本日、この部屋には秘書であるビーマの他に別の姿があった。普段は柔和な顔をしているエヴズヴァが珍しく真剣な顔をしており、彼の前に立っている人物も同様に緊迫した表情のまま相対している。
ここ数年の『クヴェルア』の世界情勢はお世辞にも平和的なものではなかった。例の国が事を起こすに当たり、数年前より水面下で西側諸国を懐柔し、保守派を抑え込むことで着々と戦の準備を整えていた。
何故「統一」ということに対して躍起になっているのかは専門家の間でも議論されていたが、依然として答えは出ない。
「既に多くの西側諸国が同盟組織に加わっています。このままでは『クヴェルア』最大の複合組織が出来上がってしまいます」
「ふむ………」
エヴズヴァは思わずこめかみを指で押さえた。彼が何か問題に当たった時や悩みごとがある時によくする仕草である。
「東と西で争う、か」
「恐らくはそうなるでしょう。情報部門の調査によると、パホニを含む連合諸国の占領も計画に入っているとのことです」
「やはりそうか。………勝算があると思うかね、ギッタレー君」
「…………」
勝てない。それは最も現実的な予想であり、最も認めたくない言葉だった。これまでパホニは軍事国としても戦争において過去様々な戦果を挙げている列強国の一つである。
それは治安維持部隊の副隊長であるギッタレーも誇りに思うところであった。しかし、そのような強国の立場であっても今度の事は非常事態であると受け止めざるを得なかった。
「………まぁよい。ひとまずは地方長たちと会合してからだ。まだ時間はある。ビーマ君」
「はい、隊長。各地方長たちとの会合スケジュールの調整を行います」
「うむ、頼んだ。さて、今日のところは一旦お開きにしよう。今後の計画が固まり次第、また招集をかける」
「……了解しました」
礼をし、隊長室を後にする。ヘール・ギッタレー副隊長。彼はとても実直な男であった。命令には忠実であり、作戦も完璧に行う。彼の戦績は隊長であるエヴズヴァにも引けを取らないほどの類稀なる人材である。
これまで様々な紛争、戦争に参加してきた彼であるが、今回ほど如実に戦力差をまじまじと感じたことはなかった。一般的に第三次世界大戦などと称される先の大戦でもパホニは連合軍と共に戦い、戦果を残した。
「私は、パホニを勝たせなければならない……」
戦争に負けた国がどうなるか。それは軍に準ずる者が一番よく知っている。そして勝った国がどうなるのかもよく知っている。負けた国から何を搾取し、勝った国はどれほどの恩恵を得るのかも。どちらの立場もよく知っているからこそ、彼は本気で焦りを感じざるを得なかった。
既に職員の大半が帰った後の通路は薄暗く、彼が床を踏む音だけが静寂に釘を刺すように不気味に鳴り響いた。
数週間後、情報部門——
「見つけた……」
「どうしたの?」
珍しく真に迫ったような顔でモニター画面を見つめるサントムに釣られるようにラーザもモニターを覗き込んだ。
サントムはパホニの中でも抜きんでたハッカーとして、そちらの界隈では有名な方であり、彼が情報部門に抜擢された要因の一つでもある。そんな彼は数日前からターヴォルの軍事ネットワークに潜り込み、最新軍用規格でもある超暗号化技術を相手に次に計画されている戦争のシナリオを取集していた。
ここ数日それを見つけるために時間を費やしていたが、遂にその防御を突破しそのシナリオへと手を届かせたのだった。
「『戦争計画書』ね。これまた分かりやすいタイトルだこと」
そのファイルには整然としたリストが並んでおりあからさまに物騒な字面がそれを埋めている。
「タイトルはどうでもいい。問題なのはこれだ」
それが表示されている画面を下にスクロールすると、ある項目が目に留まった。
「『連合国殲滅戦概要』、『クヴェルア計画』・・・」
こういった事が計画されているということは、以前より各国のシンクタンク等の情報機関が警鐘を鳴らしていた。しかし、決定的な事実を突きつけられるとまた違った焦りが生まれる。
「…………そして極めつけはこれだ」
『クヴェルア計画』と銘打たれた項目。その詳細には統制国の最終目標である〝世界統一〟という言葉が刻まれていた。
「結局、それが目標なのね………。隊長からは話は聞いた?」
特に驚くべき内容でもないという風に彼女は流した。
「あぁ、だいたい同じような内容だった」
「そう………じゃあ全面戦争は免れないわね」
苦い顔でその画面を凝視した。もう事態を回避することは出来ないのかもしれないと、そんな漠然とした緊張感が全身を覆うようだった。
「パホニは地理的にも要所だ。ここを取られたら、東側の戦局は一気に悪くなる」
「そうね。パホニは連合国からしたら玄関口のようなものだもの。エカンデルクラスの兵器情報はある?」
「うーん……無いわけじゃないけど、目新しい情報は……ん?これは……」
「なに…?」
「「華幕」………?なんだろうこれ。兵器の名前っぽくはないけど・・・おいこれ……っ!?」
「………!」
唐突に見つけてしまった「華幕」という謎の兵器らしき情報。その概要は今までの兵器の常識を覆すような代物だった。
「こんなのが実戦導入されたらとんでもないぞ……」
「領域型兵器……こんなものまで作製してるの………?」
「……とにかく、これは上に報告しなきゃな……」
何か恐ろしい物を見てしまったといった様子でサントムは僅かに伸びをした。
その動作の延長でふと周りを見渡すと、あることに気づく。
「…………ところで、ドンワーズはどこいったんだ?ここ数日見てねぇけど」
「あぁ、ドンワーズなら——」
「ドンワーズ君には、とある任務に出てもらっているよ」
「た、隊長——!?」
いつの間にか部屋の入口に立っていたエヴズヴァが代わりに答えた。完全に不意を突かれたサントムは思わず椅子から立ち上がろうとして膝を机にぶつける。
「うむ、二人とも、お仕事ご苦労」
「隊長は、えっと……何の御用で…………?」
「先日、地方長同士で開かれた議会で決まったことを伝えに来たのだ」
そう言うとエヴズヴァは片手に持っていた紙の束を二人の前に差し出した。
「議事録と、その要点をまとめた資料だ。参考にしてくれたまえ」
「……ありがとうございます」
どれほどの議論が成されたのだろうか、渡された紙の束はその情報量を物語るに相応しい重量で、気を抜いたら手から落ちてしまいそうなほどだった。
「では、私はこれで失礼するよ」
「あぁっ!ちょっとお待ちを隊長!」
「なんだね?」
「こ、これを——」
エヴズヴァを引き留めると、先ほど発見した例の兵器の概要を見せる。
「ほう………領域とな……」
「こんなのは未だかつて見たことありません。直ぐに連合諸外国に連絡を」
「なるほど……分かった。これは緊急を要する案件だね、伝えておくよ」
「ありがとうございます」
「礼には及ばんよ。君たちのおかげで潜在的脅威を発見できているんだ。では、失礼するよ」
「はい、ご苦労様です。隊長」
敬礼しながらその姿を見送ると、急にどっと疲れが押し寄せてきたような感覚に陥る。原因は疑う余地もなく今さっき渡された〝これ〟だろう。
「……じゃ、仕事しよっか」
「あぁ…」
残され駆動音だけが低く響く空間で怠惰な返事を交わし向き直ると、手でガシッと掴めるほどの厚さのそれをチラリとみやり、デスクに置き直す。
「——あっ、そういえばドンワーズはどうしたって?」
「あぁ、言いかけた途中だったわね。ドンワーズは隊長から特別な任務を受けて一昨日くらいから出発したわ」
「……で、どこに?」視線は画面を捉えたまま、カタカタをキーボードに指を沈ませ言う。
それから一拍置いて彼女は口を開いた。「………緊張地、よ」
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