第27話:王城潜入
王城に潜入するにはまず、物理的な問題が発生してくる。
それは警備の多さと、迷路のように入り組んでいること。
勇ボコの時は正直、この警備と迷路が面倒だった。
隠し通路もあって、そこから突然警備が現れて戦闘になったり、負けてしまうとゲームオーバーになって最初からやり直し。
ストレスが溜まりまくるこのストーリーは、もちろん魔王視点である。
魔王視点のストーリーには、勇者視点のストレスフリーとは異なり、このようにストレスの溜まるイベントが数多く配置されている。
どこでバランスを取っているのかと憤ることもあったが、俺はそんな魔王視点を何度もクリアした人間だ。
……本当に、頑張ったと思うよ、うん。
とはいえ、今回の俺はシャドウであり、影魔法の使い手だ。
影を移動することで警備をかいくぐり、迷路もお構いなしに突き進んでいく。
そうしてあっという間に抜け道の前に到着したのだが、問題はここからだ。
「……ふぅ。影が全くない、光の通路」
まるで影移動を警戒しているかのような通路だ。
そんなことはないと思うが、ここには一切の影が存在しない。
それ故に影移動も使えない。
だからといってただ真っすぐに光の通路を進むと、許可を得ていない者が魔法陣に触れると警告音を発してしまう。
俺は当然許可を得ていないので警告音が鳴ってしまい、警備に殺されてしまうというわけだ。
「魔法陣の位置は分かっているけど、念のために見ておくか」
どのように魔法陣が設置されているかは記憶している。
しかし、勇ボコのシステムと全く同じかは確証がないので、俺は魔法陣が反応しない距離から光の通路を凝視する。
「……視えた。魔法陣は、勇ボコの時と同じだな」
俺は瞳に自らの魔力を集中させ、他者の魔力が視えるように魔力の質を変換する。
これは勇ボコの魔王視点をクリアするには不可欠な要素であり、何度も光の通路で失敗を重ねた俺だからこそ分かる、魔力操作の高等技術だ。
そういえば、魔王視点で王城へ潜入したのは一般の斥候兵だったけど、そいつはどこにいるんだろうか?
プレイヤーが操作していたとはいえ、光の通路を通過するための魔力の質を変換する技術を持った兵士だ。
見つけることができれば、貴重な戦力になると思うんだが……名前もない斥候兵だったんだよなぁ。
本当に、魔王視点は陰の実力者が多いストーリーだと言えるかもしれない。
シャドウ含めての話なんだけどな。
「さて、魔法陣の位置も再確認できたし、行くとするか」
光の通路には警備が配置されていない。
それは何故か、警備の人間にも光の通路を通る許可が下りていないからだ。
それだけ光の通路から侵入者が入ってくることはないと、王国が絶対的な自信を持った場所だとも言えるだろう。
そんな傲慢な自信が、俺にとっては抜け道になってくれているのだから、ありがたいことだ。
一歩ずつ、慎重に足を進めていく。
少しでも魔法陣を踏んでしまえば、その時点で俺は詰んでしまうからだ。
光の通路は五〇メートルほどの距離がある。
ただ真っすぐに進むだけなら一〇秒も掛からないだろう距離だが、俺はその距離に一〇分以上の時間を掛けて、ようやく突破することができた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……なんだか、めっちゃ疲れたな」
精神的な疲労のせいだろう、全身から汗が噴き出しており、俺は周りに誰もいないことを確かめてから一息つく。
しかし、これで終わりではない。
これからレイディスの情報を集めなければならないし、王城から脱する時にもまた光の通路を通らなければならないのだ。
……そうか。ここをもう一度、通るんだよなぁ。
「……さっさと情報を集めて、なるべく早く帰るとしようかな」
すでに休みたいという思いに駆られてしまう。
一息ついた俺は立ち上がり大きく伸びをしたあと、影移動を用いて一気に移動を開始する。
目指すはレイディスの寝室。
彼が何を考え、何を信条としているのか、それを知ることが最大の目的だ。
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