第19話:二人の話し合い

「うふふ。ちょっとそこまでよ。ね、シャドウ?」


 するとこのタイミングでレイドがふざけてなのか、ウインクをしながら、それも妖艶な感じでそう言い放つ。


「…………ほほ~~?」

「いやいや! レイド様は俺が魔法を使えると知って、魔法が見たいって――」

「それじゃあね、シャドウ。……とっても楽しかったわよ~?」


 こ、この野郎! 絶対にわざとだろ! 楽しんでるだろ!

 結局レイドは、最後の最後まで大人の色気を振りまきながら、その場をあとにしてしまった。


「……も、模擬戦がってこと、だからな?」

「……へええええぇぇ~~?」


 ……おいおい。この状況、どうしてくれるんだよ! なんだかめっちゃ怒ってるんですけど!

 いや、顔は見えていないけど、そんな雰囲気がプンプン漂ってくるんですけど!!


「ちょっと来てもらおうか、シャドウ」

「……いや、その。レイド様との模擬戦で疲れていて、休ませていただければと――」

「来なさい!」

「…………はい」


 アリスディアの奴、甲冑を身に着けているにもかかわらず、普通の声音で声を掛けてきた。

 それだけ、激高しているということだろう。

 ……そんなにレイドと模擬戦をしたことを怒っているってことなのか?

 そんなことを考えながら歩いていると、あっという間にアリスディアの部屋の前に到着する。

 アリスディアは無言のままで部屋の扉を開け、顎をくいっと動かして中に入るよう促してきた。


「……は、はい」


 その行動がとても恐怖をあおり、俺は逃げるという選択肢を選ぶことができなかった。

 部屋に入るとアリスディアがそのまま扉を閉め、すぐに兜を脱いだ。


「……いったい、何をしていたの?」


 …………か、可愛い! 頬を膨らませたその表情、可愛すぎる!


「……ちょっと、シャドウ!」

「え? あ、いや……模擬戦だって言わなかったか?」

「それ以外でよ!」


 ……それ以外? それ以外ってなんのことだ?


「……模擬戦以外は何もしていないけど?」

「それを信じれって言いたいの?」

「信じるも何も、それだけなんだけど?」


 アリスディアはいったい何を心配しているのだろうか。

 いきなり転移させられて、寒空の下でガクガクブルブルして、その後の模擬戦……うん、他には何もないはずだ。


「……本当なのね?」

「そ、そうだな」


 ジト目を向けられながらも確認されたが、俺に肯定以外の選択肢はなく、即答で頷いた。


「…………なら、いいわ」

「……い、いいのか?」

「ダメなの?」

「いや! もちろんいいです! っていうか、マジで模擬戦しかしてないから!」


 ここでまた疑われるのも面倒だし、俺はこれ以上何も口にしないことにした。


「……はぁ~」

「だ、大丈夫か?」

「あなたがレイドと二人っきりでどこかに行かなかったら、こんな心配はしなくてもよかったのよ」

「……な、なんか、ごめん」


 心配されるようなことはなかったと思ったが、ここは謝っておいた方がいいと思いそう口にした。


「それで、模擬戦の結果はどうだったのかしら?」

「一応、勝てたよ」

「えぇっ!? レイドに勝ったの!!」

「ギリギリだったけどな」


 苦笑いしながら答えた俺を見ながら、アリスディアは驚きの表情を崩さない。


「……レイドの領地で戦ったのよね?」

「そうだな。いきなり転移だし、到着したら極寒だし、大変だったよ」

「……あなた、レイドの領地でレイドに勝ったということが、どれほどすごいことか分かっているのかしら?」

「……ん? どういうことだ?」


 俺はアリスディアが何を言いたいのか理解できず、首を傾げてしまう。

 だって、レイドが領地内で戦うストーリーなんて、勇ボコにはなかったことだからだ。


「レイドの魔法がどんな魔法なのかは知っているでしょう?」

「当然だ。氷魔法の使い手で、その中でも最強だと言われているし、俺もそうだと思っているよ」

「あなた、そんな相手に一面雪景色……いいえ、吹雪が止まない領地で勝っちゃったのよ? レイドが本領を発揮できる場所でね!」


 ……あ、そういうこと?


「いやいや。レイドだって手加減をしてくれたはずだぞ?」

「彼女がそんなことできると思う? 魔法に関しては誰よりも執着の強いレイドよ?」

「あー……」


 うん、無理だわ。だって、勝利を決定づけたあの瞬間ですら、ぞくぞくするとか言っていたもんな。

 ……え? もしかして俺って、結構強かったりするのか?

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