最高のエンディングを特等席で! ~って、何選んでるんだこの主人公!?~

日夜 棲家

ヒロインとの出会いイベント期間編

第1話 大好きなゲームの世界に転生していた、と知る

「あー、彼女つくりてー!」


「彼女……?」



――――――――――――――――――――


此北忠義これきた・ただよし

『あー、彼女つくりてー! ▽』


【主人公】

『彼女……? ▽』


――――――――――――――――――――



 気づかなかった。

 どうして気づけなかったのか……。

 悔やまれる。



「俺たちもう高校生だろ? だからさ、彼女の一人や二人つくりてぇじゃん!」


「……いや、言い方……っ」



――――――――――――――――――――


【此北忠義】

『俺たちもう高校生だろ? だからさ、彼女の一人や二人つくりてぇじゃん! ▽』


【主人公】

『……いや、言い方……っ ▽』


――――――――――――――――――――



 俺の目の前に二人の男子がいる。

 身長百七十センチほどで痩せ型の黒髪メカクレ系の男の子と、背が百八十センチくらいあるスポーティで金髪イケメンの男の子。



「なんだよ? お前は彼女いらねぇって言うのかよ!?」


「い、いや、僕はいい、かな……」


「……まだあの時のことを引きずってるのか?」


「あ、当たり前だろ? 嘘告に罰ゲーム、お金目当てにまでされたんだぞ! あんなことを経験して、“彼女がほしい”って気持ちは湧いてこないよ!」



――――――――――――――――――――


【此北忠義】

『なんだよ? お前は彼女いらねぇって言うのかよ!? ▽』


【主人公】

『い、いや、僕はいい、かな…… ▽』


【此北忠義】

『……まだあの時のことを引きずってるのか? ▽』


【主人公】

『あ、当たり前だろ? 嘘告に罰ゲーム、お金目当てにまでされたんだぞ! ▽

 あんなことを経験して、“彼女がほしい”って気持ちは湧いてこないよ! ▽』


――――――――――――――――――――



 彼らはこの街の全体が一望できる[見晴台]で、彼女云々の話をしていた。


 初めて見た時は、黒髪の男の子の方はよくわからなかったけれど、金髪くんの方は見た時に(あれ?)って思った。

 (この人、親友くんじゃない⁉)って。

 平面と立体の差はあったけれど。


 そんな彼らが繰り広げている会話は――



「確かにあれはひでぇ出来事だった……。九連続だもんな……。けどさ……そのままでいいのか?」


「ど、どういう意味だよ、それ……っ」


「そのまま、一生彼女をつくらなくていいのか? って意味だよ。お前は悔しくないのか? お前を騙した奴らに負けたようなものだろ、それ」



――――――――――――――――――――


【此北忠義】

『確かにあれはひでぇ出来事だった……。九連続だもんな……。 ▽

 けどさ……そのままでいいのか? ▽』


【主人公】

『ど、どういう意味だよ、それ……っ ▽』


【此北忠義】

『そのまま、一生彼女をつくらなくていいのか? って意味だよ。 ▽

 お前は悔しくないのか? お前を騙した奴らに負けたようなものだろ、それ ▽』


――――――――――――――――――――



 ――


 画面越しに映し出されていたものが俺の頭の中に再生されている。



「っ、よくない……けど! 忠義にはわからないだろ!? 九連続で騙された僕の気持ちは!」


「ああ、わかんねぇな! 過去のことに囚われて前に踏み出せなくなってる奴の気持ちなんか! うじうじしてれば何かが変わるのかよ!?」



――――――――――――――――――――


【主人公】

『っ、よくない……けど! ▽

 忠義にはわかんないだろ!? 九連続で騙された僕の気持ちは! ▽』


【此北忠義】

『ああ、わかんねぇな! 過去のことに囚われて前に踏み出せなくなってる奴の気持ちなんか! ▽

 うじうじしてれば何かが変わるのかよ!? ▽』


――――――――――――――――――――



 そ、それは……っ!



「そ、それは……っ!」



 変わろうとしなくちゃ何も変わらねぇんだよ! 俺は彼女をつくるぜ!? お前はそんな俺を指をくわえて見てるだけでいいんだな!?



「変わろうとしなくちゃ何も変わらねぇんだよ! 俺は彼女をつくるぜ!? お前はそんな俺を指を銜えて見てるだけでいいんだな!?」



 ……っ!



「……っ!」



 そんな惨めな人生でいいんだな!?



「そんな惨めな人生でいいんだな!?」



 よくないっ!



「よくないっ!」 




 ……わかる。

 彼らがこのあと何を言うのか、一言一句当てられる。


 これは――






――ゲーム『コイヘン』のプロローグだから。






 恋愛シミュレーションゲーム『コイヘン』。


 高校生になった主人公・中間好太郎なかま・こうたろう〔デフォルト名〕が過去の女性関係のトラウマを克服しながら彼女をつくるために奮闘するギャルゲーである。

 ヒロインは九人もいてそれぞれに違った魅力がある。

 まあまあぶっ飛んだ設定があるヒロインも何人か登場する〔というか一人を除いてぶっ飛んでいるかもしれない〕のだけれど、キャラの個性は他のゲームにはないほどに立っていると思う。

 ビジュアル良し、キャラクター良し、音楽良し、ゲーム性良し。

 ……なのだけれど、シナリオは問題があった。

 ヒロインそれぞれにハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドが用意されているのだけれど、なかなかに難易度が高かったのだ。

 バッドエンドの数は尋常じゃないほどに多いし、恋愛ゲームだというのに主人公やヒロインがよく死ぬ。

 また、ハッピーエンドのルートを通っていても途中に胸糞展開と鬱要素がふんだんに盛り込まれているという、プレイヤーを執拗に追い込んでくるスタイル。

 あまりのひどさに絶望パートを乗り越えられないプレイヤーたちが続出。

 そのため、一般的な評価はあまり高くはなかった。

 それでも、それらを乗り越えられた先にある展開は素晴らしいの一言。

 『ふるいにかけすぎて自ら高評価をどぶに捨てたもったいない良作』だと俺は思っている。


 俺は完走率十パーセント以下とされているこのゲームの全ルートを攻略している。

 主人公はそれぞれに問題を抱えた個性豊かなヒロインたちと出会うことになるのだけれど……。



 『小動物センパイ』こと天上美麗あまがみ・みれい


 『壊れてしまった少女』後呂怜うしろ・れい


 『フィジカルオバケ』の左海優さかい・ゆう


 『ミスティックミステリアス』こと下地才子しもじ・さいこ


 『ミス器用貧乏』の八右恵はちみぎ・めぐみ


 『異常に異常』な早先咲はやさき・さき


 『つかみどころのない問題児』の前野友親まえの・ともちか


 『謎の少女』真央まお


 『お姉さんな生徒会長』の向谷真百合むこうだに・まゆり



 ……どのルートも地獄である。

 最後は良いから俺の大好きなゲームではあるんだけど……。




「……」


「……今でも女子は怖いんだ。でも……っ。あいつらにいいようにされて終わるのは納得できないから、やるよ……! 僕は彼女をつくる!」



 目の前にいる彼らだけど、そのゲームをなぞらえている……のか?

 ……いや、そうじゃない。

 だって、金髪のイケメンくんの声はまんまゲームの親友くんの声で。

 それに、あのゲームは――






――今の俺が生きるこの世界には存在しないはずだから。






「ハッ! よく言ったぜ、相棒! 夏には海でダブルデートをしようじゃないか!」



 金髪のイケメンくんが言う。

 黒髪の少年のことを“相棒”と。

 黒髪の彼のことは見ただけでは誰なのかわからなかったけれど、その発言で(まさか……!)と思う。 

 親友・此北忠義が“相棒”というのは一人しかいない。






――『コイヘン』の主人公・中間好太郎。






 何を言ってるんだ? と言われるかもしれない。

 けれど、それが事実だ。



「そんな早くにはできないと思うけど……。でもまあ、忠義よりは早くできるかも?」


「はぁ? なんでだよ! フツメンのお前よりイケメンである俺様の方がアドバンテージがあるだろうがっ!」


「そういうところだよ! 確かに顔はいいけど……」


「よーし、わかった! ならどっちが先に彼女できるか勝負と行こうぜ!」


「き、競うようなことじゃなくない!?」



 黒髪の彼はゲーム『コイヘン』の主人公くんだ……!



 存在しないのだからなぞらえられるわけがない展開。

 三次元に落とし込んだような姿とゲームそのままの声の親友くんと、よく見たらイベントCGに見切れる形で描かれることが多かった主人公くんっぽい雰囲気の黒髪の少年〔三次元化〕。

 街の名前も、彼らが通うことになった高校の名前も、この背景も全部ゲームと一緒。


 どうやら俺は――






――『コイヘン』の世界に転生してしまったらしい。






 至った。

 そんな荒唐無稽な結論に……。


 まだ確定というわけではないけれど、もしここがあのゲームの世界だというのなら……。






――楽しまないともったいない!






「いいや! お前は俺様を本気にさせた! そのことを後悔させてやる! そしてお前にジュース一本奢らせる!」


「あ……、賭けの内容は良心的なんだな……」



 賭け事の話をして、ここ――始まりの場所である[見晴台]から去っていく主人公くんと親友くんの背中を見送りながら、俺は一人、大好きなゲームである『コイヘン』の物語の中に入れたかもしれないということに歓喜していた。

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