P.17


     *


 なんだか世界がガラリと変わって見える。昨日までと違った色合いになってしまった。のほほんとしたコドモの世界に、オトナの世界が割り込んできたってカンジ。

 いっぱしに何でもわかった気でいたが、まるで違う。ボクたちは、庇護下の牧場で草をむヒツジの群だった。柵の外、薄暗い森の中には、生々しい弱肉強食地帯が拡がる。襲いかかる隙を窺う毒蛇や、弱みや不幸に喰らいつく狼が潜むフィールドだ。

 そして現在いま、安全な牧場の柵を越えた辺りに、アネゴは立っている。

 妙な想像が泡のように浮き上がるたびに、追い払った。

 誰に話すわけにもいかない。舞島先生の前で頬を染めていたアネゴ。ずっとあのままの姿でいてほしい。

 お母さんの手術は無事に終わり、休養したのち仕事に復帰するという。倉庫業の入出庫事務を担当しているそうだ。

 LUCKSでのバイト代に数人の賛同者からのおカネを足し、お見舞いにした。合意により賛同者の名前は伏せた。気を遣わせないためだ。

 代表して、ボクと雪ちゃんが手渡した。

 ありがとう。そう言って彼女は目を伏せた。元気が無かった。

 翌8月30日、雪ちゃんとアネゴとボクは、隣市駅前にあるマクドの2階席に居た。

 見下ろす駅前ロータリーは、強い夏の陽に炙られている。

 電車で15分ほどの隣市は県の中心地で、周りの市町村から通勤者を集める。買い物や娯楽は、この街に来ないと用が足せない。

 夏休みの最後を盛り上げようと、アネゴを誘って遊びに来ていた。

 ショッピングモールで無料の音楽ライブを楽しむ。女の子の好きなキャラクターグッズの店へお供し、帰りの電車に乗る前に、冷たいシェイクを飲んでいる。

 雪ちゃんはまたアイティーだ。ミルク、シロップ無しの。このところ、外で何か食べるのを見たことがない。あんなに甘いものが好きだったのに。

 減量を維持するためだろう。キレイで居ることは、それなりの努力を要するのだ。

 つらくなる。太っていても、ケーキにフォークを入れる笑顔が好きだった。

 おまけに、この店に入ってから、急にアネゴの口数が減った。これまではボクらに合わせて、盛り上がったフリをしていたのかもしれない。

 囲んだテーブルに影が降りたように、沈鬱なムードが漂う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る