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店を出て路地を抜けようとすると、電柱の陰から出てくる二つの影があった。帽子を目深にかぶっている。
思わず立ち止まる。
二つの帽子が上った。雪ちゃんと辰則だ。
辰則はバットケースを肩に掛けていた。「だいじょうぶだったか」
ボクはこくりとうなずく。
「あー良かった。無事だった」雪ちゃんは胸に手を当てた。
「アネゴから連絡があったんだ。それで、何かあったらマズイと思って」
ボクはバットケースに目をやる。「バット振り回してオレを守ってくれる気だった?」
「おうよ。A高の四番打者がついてる。大船に乗った気でいろ」
急に自分の立ち位置を自覚してヘナヘナ崩れ落ちそうになった。
盛り場のいかがわしいゾーンから脱出すると、駅前の、照明がさんさんと降るマクドに落ち着いた。
「流美ちゃん、光治くんのこと心配してたよ」と雪ちゃん。
「お母さんの方はだいじょうぶだよな」
「だいじょうぶだと思うけど、何かあったら妹さんと二人きりになっちゃうって、過剰に心配してる」
「水臭えじゃねえか。何でオレにホントのこと言わない? 明日はオレが代わりに出てもいいぞ」
「ありがたいけど、
「でも、流美ちゃん、えらいねぇ。働きながら勉強してたんだ」
「だよなあ」ボクは日払いの千円札を6枚、手元に拡げた。「どうしよう、これ。アネゴ受け取るわけないし」
「お母さんのお見舞いにしようよ。ワタシも足すから」
「それがいい。オレも足すよ」
「後どれくらい働いたら借金返せるんだろ」
「わからない。看護師さんになるって言ってたけど、大学合格しても授業料あるし、やっていけるのかな」雪ちゃんはミルクもシロップも入れずアイスティーをすする。
「くそう、オレたちは無力だ。せっかくアネゴが変わろうとしているのに、何も助けてやれねえ」
「貯金ぜんぶ下ろしたって全然たりない」夕方カップ麺を食べたきりのボクは、ビッグマックにかぶりついた。
その夜は、自分たちの無力を嫌というほど思い知らされた。
バスと電車の最終時刻に思い至り雪ちゃんに問うと、流美ちゃんちに泊るから平気、と応えた。
溜まり場になった家を処分し、金子一家は高校近くのアパートへ引っ越していた。
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