P.02

 搭乗時間がくるまで空港内のカフェで時間を潰した。

 出がけは上機嫌だった雪ちゃんが、妙に押し黙っている。

「ワタシが隣に居たら、光治くん笑われてるかも」

「え、なんで?」

「ワタシ、デブだし」

 ラメ三人組のことだ。関係ないカップルを値踏みしてわらっていた女の子たち。

「デブじゃないよ。まあ、肉付きはいいけど」全然フォローになってない。「あんなヤセギス連中よりずっと魅力的だと思う」

「ありがと…… 恋愛って美男美女だけの特権なのかな、って思っちゃった。スタイルだって大事だし。条件以下の人には、恋愛の権利ないみたい」

「えー、そんな大それたハナシになるぅ?」

「映画だって小説だって、綺麗な男の人と女の人ばかり恋を繰り広げてる」

「お芝居だし。感情移入させるなら、キレイな人になりきらせた方が喜ばれるし──」

「ほら」クリームソーダを啜って頬を膨らます。「やっぱり綺麗な方がイイじゃん」

「うーん。でもさあ、電車の向かいに居たお二人、すごく幸せそうだったよ」ボクの思考は深掘りできずに迷走する。

「そうだよね。心が繋がってる、て感じだった。ああいうの、いいなあ」ストローを廻してアイスクリームを緑の炭酸に溶かした。「図書室で借りた本なんだけどね。女性作家の。その小説の中で、クリスマスの日、電車で乗り合わせたカップルを見て女主人公はこう思うの──あんな醜いカップルにもイブは来るのだ」

 ボクのアイスコーヒーは氷だけになっている。仕方なしに水を飲む。

「──そこ読んだとき、ちょっとショックだった。たぶんワタシも同じことを思ったりしてる。さっきのらみたいに口に出さないだけで」

「思いつめるほどの事かなあ」

「カタチはいい方が、やっぱりイイよね」

「そりゃそうかも」

「だよね。わかった」

「何がわかったの?」

「まあ、行ってきます。そろそろ時間だし」取って付けたような笑顔で、雪ちゃんは話題を強制終了した。

 謎の決意を秘めたようすで、彼女はピンクのキャリーケースを転がし搭乗口へ向かった。

 目が痛いほど青い空。飛び立った機体が青に溶けてしまうまで、ボクは展望デッキで見送っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る